経済産業省は26日、「第4回 ロボット大賞」(日本機械工業連合会と共催)の概要を発表し、新設の「日本科学未来館館長賞」を含む主要各賞の受賞理由を公表した。
「第4回 ロボット大賞」を受賞したトヨタなどのスペアタイヤ自働搭載ロボットは、アームの自重を一定補償する独自機構の採用により、80Wの低出力モータながら約25kgのスペアタイヤの搬送を可能にしたシステム。産ロボの適用除外(労働安全衛生規則)を達成することにより人との共存環境下での運用を可能にした。また残留リスク対策として、アームにかかる外力を推定する「力センサレス柔軟制御」を実装しており万一、作業者に衝突しても接触力を70N以下に抑えて停止することができる(システムの詳細は、ロボット学会の記事を参照してほしい)。
様々な安全規格を参照しつつ適切な設計仕様を導出することで人とロボットが同一空間での協働作業を可能にしたことや、それ以前に開発・導入したウィンドウ搭載アシストシステムから取り組む“人・ロボット共存システム”の構築に向けた取り組みが評価された。
「最優秀中小・ベンチャー企業賞」を受賞した前川電気の豚腿(もも)部位自働除骨ロボットは、豚腿(もも)部位の筋入れおよび自動除骨を自動化したシステムで、ロボットアームにより足首全周のカットから筋入れ、さら骨カット、下腿骨および大腿骨の引き剥がしまで行える。難供給ワークに位置づけられる豚腿肉は軟弱なうえに個体差によるバラツキが大きく、自動化は困難とされていたが、X線認識システムなどにより骨のサイズおよび形状を認識することで、それぞれの状態に合わせて、これら一連の作業の自動化を達成した。豚腿部位における除骨作業の約60%をカバーする。
食肉工場は若年労働者の定着率が低く、また、技能伝承の難しさから生じる生産性および歩留まりの低下が懸念されている。同ロボットの利用によりこれらの解消が期待されるうえ、作業者が刃物を手にして作業をする従来の食肉処理のイメージを一新することが評価された。
「日本機械工業連合会会長賞」を受賞したパナソニックなどのシステムは、薬剤払出・調剤・監査・搬送・服薬指導からなる薬剤業務に対し、第一弾として薬剤払出と搬送支援に向けたロボット群。
注射薬払出ロボットは1時間で1,000本と高速払出ができると同時に、薬品破損率は5,0000回に1回以下と安定稼動を実現。加えて、輸液ラベルと注射箋の一括払出が可能で、効率化とともに薬の取り違えミス(ヒューマンエラー)を防止できる。薬剤搬送ロボットは地図情報をもとに最適な経路を判断したり遠隔操作でエレベータに乗って各階を移動したりして払い出した薬剤を自律搬送する(システムの詳細はこちら)。
パナソニックでは『病院まるごとロボット化』を掲げており、その第一歩として薬剤業務支援に向けたロボット群の開発に取り組んでいる。単一工程をロボットに置き換えるという、ありがちな提案と一線を画し、一連の薬剤業務を分析し、複数ロボットの運用によりトータルで経営効率が図れる提案を始めている。自動化による保険点数がつく業務へのシフトはその一例である。また、注射薬払出ロボットをグループ内の松下記念病院に導入した際は、業務改善を指導したうえで進行っており、このようなソリューションとしての提案は、他のロボット事業者の参考に資するところが多いと評価された(詳細はこちら)。
「中小企業基盤整備機構理事長賞」を受賞したハイボットなどの超高圧送電線の活線点検ロボット(写真下左)は、遠隔操作により電線上を移動して超高圧送電線の活線点検を行う。走行状況に応じてアームの姿勢変化を利用しながらバランスを調整することにより、電線間隔を保持する径間スペーサや、電線を支持する懸架がいし装置を回避しながら、複数の送電線間を連続で点検できる。安全な点検作業を確保し、かつ無停電で外観検査を行える点は公益性が高く、評価された。
「日本科学未来館館長賞」を受賞したJAXAなどの宇宙用ロボットアーム(写真下右)は、実験棟「きぼう」船内の操作卓からの遠隔操作により、実験ペイロード(実験衛星など)を船外プラットフォームへの移設や取り付けを行う。宇宙空間という極限環境における有人システムの安全性を確保するために、設計初期段階からのハザード管理、それをもとにしたハザードの制御や残留ハザードのリスク評価を、各フェーズで行うことで信頼性の高いシステムを構築した点が評価された。また、今回の応募期間中に計5台のペイロードの取り付けを完了し、わが国の技術力を海外に示したことも加味されている。

■「第4回 ロボット大賞」受賞ロボット一覧
○「第4回 ロボット大賞」(経済産業大臣賞)
「安全・快適に人と協働できる低出力80W駆動の省エネロボット」
(トヨタ自動車/オチアイネクサス/名古屋工業大学/首都大学東京)
○「最優秀中小・ベンチャー企業賞」(中小企業庁長官賞)
「豚もも肉部位自働除骨ロボット・HAMDAS-R(ハムダスR)」(前川電気)
○日本機械工業連合会会長賞
「注射薬払出ロボットを起点とした薬剤業務支援ロボット群」
(パナソニックヘルスケア/パナソニック)
○中小企業基盤整備機構理事長賞
「超高圧送電線の活線点検ロボット・Expliner(エクスプライナー)」(ハイボット/東京工業大学/関西電力/かんでんエンジニアリング/ジェイ・パワーシステムズ)
○日本科学未来館館長賞
「きぼう」ロボットアーム
(宇宙航空研究開発機構(JAXA)/日本電気(NEC))
以下「優秀賞」受賞ロボット
○サービスロボット部門「優秀賞」
「細胞自動培養ロボットシステム」(川崎重工業)
「イチゴ収穫ロボット」(農業・食品産業技術総合研究機構/生物系特定産業技術研究支援センター/エスアイ精工)
「サイバネティックヒューマンHRP-4C」(産業技術総合研究所)
「ジョイスティック式自動車運転システム」(東京農工大学/ニッシン自動車工業)
○産業用ロボット部門「優秀賞」
「ゲンコツ・ロボット」シリーズ(ファナック)
○公共・フロンティア部門「優秀賞」
消防用偵察ロボット「FRIGO-M(フライゴー・エム)」(三菱電機特機システム/総務省消防庁消防大学校消防研究センター)
○部品・ソフトウェア部門
「D3モジュール」(D3基盤技術)