●浦沢 直樹 × 手塚 治虫 著
●小学館
●197ページ
●A5判
●http://comics.shogakukan.co.jp/
「アトムは失敗作だよ・・・・・」
「人を殺すかもしれないほどの強い憎悪こそが・・・・・電子頭脳を育てるのだ」
「間違う頭脳こそが完璧なんだ」
第5巻は、そう吐き捨てた天満博士の言葉で終わった第4巻の続編である。
同作品は、『鉄腕アトム「地上最大のロボット」』の外伝として構成されたものだが、浦沢直樹氏のオリジナル作品に仕上がっている。
主役は、本編ではサブキャラクターだった、ユーロポールの特別捜査官「ゲジヒト」に設定されている。彼は、第39次中央アジア紛争の際につくられた、世界最高性能ロボットが次々と殺害(破壊)される事件と、第39次中央アジア紛争・ボラー調査団メンバーの連続殺人事件の両方を追う。
ゲジヒトも世界最高性能ロボットの1体であり、これらは相互抑止力として存在していることが、世界規模の陰謀があることを感じさせる。
殺害現場には共通して、遺体の頭部に角のようなものが突き立てられている。また、局所的な竜巻の跡以外は具体的な痕跡が残されていない。人の痕跡も見当たらない。彼は、「ロボットは人間を傷つけたり殺したりできない」という「ロボット法第13条」に抵触する可能性を感じ取り、8年前に人を殺した高知能ロボット「ブラウ1589」への接触を試みる。
ところが、その接触を通じて、また、たびたび見る夢を通じて、自身のメモリーチップから忌まわしい記憶が消されていることに気づく。
捜査過程で人を殺していることを・・・・・。
また、それは激しい憎悪からとった行動であることにも感じ始める。
第5巻は、彼がその驚愕の事実に気づき、さらに、破壊を繰り返すプルートゥが激しい憎悪から生まれた存在であることを知るところで終わる。
最初に破壊された高性能ロボット「モンブラン」と「ノース2号」はロボットの形態をしているが、その後破壊される、格闘技ショーに登場するレスラーロボットとゲジヒトは人間的な形態を持つ。オリジナル作品の主役である「アトム」はそれ以上に人間的であり、完璧に人間の感情を模している。施された涙腺により、巧みに涙さえ流すこともできる。
本作品では、より人間であるほど高性能なロボットとして位置づけられており、アトムはその最高傑作として存在する。
しかし、冒頭の通り、天馬博士から言わせれば完全なロボットではない。
アトムはプルートゥとの闘いに敗れ、昏睡状態に陥る。“混沌”とも言うべき昏睡から目覚める唯一の手段として、天馬博士は「怒り」「悲しみ「憎しみ」などの注入という、感情を偏らせることを暗示する。それは同時に、「怒りんぼ」「弱虫」「泣き虫」「努力家」「勉強家」、または「天才」「殺人鬼」にしてしまう可能性があることもほのめかす。
この感情の偏りを人に当てはめるなら、おそらく性格や人格と言えるものなのだろう。それは人を成長させるファクターである反面、間違いを起こす要因なのかもしれない。
冒頭の天馬博士の言葉から想像するに、そうしたものを備える存在ことが人であり、完璧なロボットなのであろう。
謎に満ちたストーリー展開と、人とロボットに潜む憎悪の感情が重苦しい雰囲気をつくり上げ、作品としての奥深さを感じさせる。それだけで十分に楽しめる作品であるが、プルートゥの正体やゲジヒトに潜む憎悪の感情を知るに従い、ロボットとは何か? 人とは何か? を考えさせられるものにも仕上がっている。
次巻では、ゲジヒトがプルートゥを追い詰め、“悲しい真実”を知るようだが、果たして、そこで天馬博士の、また浦沢氏のロボット観が明確に示されるのか、気になるところである。
おもな目次
Act.32 記憶の傷跡の巻
Act.33 勝者、賢者、生者の巻
Act.34 神の選択の巻
Act.35 応答せよゲジヒトの巻
Act.36 憎悪の追跡の巻
Act.37 悲しき訪問者の巻
Act.38 六〇億の混沌の巻
Act.39 獄中の王の巻











