頭部の形状に合わせてマッサージしてくれる「洗髪ロボット」
9月29~10月1日、東京ビッグサイトにて開催された「第37回 国際福祉機器展」での注目ロボットは、なんと言ってもパナソニックのブースでデモ展示が行われていた「洗髪ロボット」でしょう。私は展示会最終日の午後、ブースで解説をされていたパナソニック株式会社 ロボット事業推進センター 商品開発・メカニズム担当 リーダーの中村徹氏に話を聞くことができました。以下、青字が各担当者のコメントになります。
写真1 ステージデモはマネキンを使っています。すぐそばで見ましたが、とても気持ちよさそうで、私もロボットに洗ってもらいたくなりました。
2009年4月に社内で起案して昨年11月まで種々の方式を検討、そこから開発をスタートしました。病院などの入院患者は、1週間に2日くらいしか洗髪の機会がないことが多いようで、それをなんとかしたいということが開発動機となっています。水流で洗う洗髪システムでは物足りない、手洗いがよいという方がいて、そこを再現できないかと考案しました。もちろん、美容室や理容店でも使用できるため、一般に幅広く使ってもらうことも考えています。ドライな状態でもマッサージができるので、ヘッドスパのようなリラクゼーション分野での利用も狙っています。
写真2(左)、3(右) 洗髪ロボットの事前セッティングはタッチパネルを使います。
構想からわずか1年半で、完成度の高いロボットを試作したわけですね。美容室や理容店で洗髪してもらう際、「かゆいところありますか?」と必ず聞かれますが、かゆい場所を口で説明するのって難しくありませんか。私はいつも「ありませーん」と答えるのですが、本当は右の後頭部に近い辺りがかゆかったりします。他人にかゆいところをかいてもらう心理的負担、「よそ様にかいてもらうなんて申し訳ないなあ~」との気持ちになってしまうのは私だけではないように思います。入院時に忙しいヘルパーさんに洗ってもらうなら、なおさらそう考えてしまいます。
もちろん洗髪ロボットが自動で洗ってくれるのもよいのですが、自分で操縦するモードも開発して欲しいものです。その場合、操縦は手元のコントローラか音声認識ということになるのでしょうね。
次に、開発で苦労した点や耐久性についても伺いました。
人の頭には様々な形状があり、髪の多い少ないなど、しっかり記憶して好みに応じて登録しておくというところ、個々の特徴に合わせて指先をうまく追従するメカニズムを、どのように仕上げていけばいいかというところに苦労しました。
防水部分はゴム製の蛇腹を使っています。ロボット指先の表面に付いているビニールは、利用者で1人ひとり交換します。清潔さをイメージしてもらいたいのです。ビニールは使い捨て手袋と同じで安いものなのでコストはかかりません。
まだ耐久試験は行っていないのですが、本展示会で取材時までに50回近く洗髪デモを行い、故障や失敗は一度もありません。
プロトタイプのロボットが、3日間に50回ものデモを行うのは珍しいですね。商品化は間近ではないかと思いましたが、「機能性の向上」と「装置の信頼性」「安全性」の3つをクリアするのは2012年頃だろうとのことです。
洗髪ロボットの隣には「らくらく移乗でくらしを拡げる生活支援ベッド」の体験コーナーがありました。これについては、同社ロボット事業推進センター ロボット企画担当 リーダーの小林昌市氏に話を聞くことができました。
写真4(左)、5(右) 「車椅子機能付き電動ケアベッド」はベッドの一部が分離して車椅子になります。ガスダンパーで力をサポートしているため、ユーザーが簡単に椅子の背を立てることができます。
この車椅子機能付き電動ケアベッドは介助用で、介護施設用にターゲットを絞り込んだものです。NEDOの「生活支援ロボット実用化プロジェクト」で弊社が開発を進めているロボティックベッドはプレミアムバージョンで、どんどん改良していき安全性が高く、要介助者の自律を目指すものとして開発しています。つまり、要介助者の立場で自律を支援するものです。
こちらのベッドは要介助者にとって生活をアシストするものでもありますが、どちらかといえば介助するヘルパーさんの立場に軸足を置いています。こちらはロボットとは呼ばず、ロボット技術を使った電動ケアベッドです。NEDOプロジェクトのロボティックベッドを開発している中で、お客さんから寄せられた声にもお応えしていこうというものです。安全規格が成立するであろう2012年頃にはロボティックベッド、洗髪ロボットともに商品化して世に出したいと考えています。
写真6 パナソニックブースでは、フィットネス機器「ジョーバ」を介護予防用に設計したもののデモが行われていました。
ロボットを開発していく過程で生まれた要素技術が製品に反映されていくわけですね。洗髪ロボットの2012年の商品化というのは、技術的な問題よりも安全認証制度の確立によるところが大きいようです。
今回の国際福祉機器展では、パナソニックのほかには大和ハウス・サイバーダイン社のロボットスーツ、セコムの食事支援ロボットなど、いくつかロボットのデモ展示がありましたが、まだまだ数は少ないように感じます。早く安全認証制度が制定され、サービスロボット産業が爆発的に拡大するといいですね。
日本で14万台売れた自動掃除機「ルンバ」
10月5~9日、幕張メッセにて「CEATEC JAPAN 2010」が開催されました。アジア最大級の「it・エレクトロニクス」イベントということもあり、会場はたいへん賑わっていました。3Dテレビやモバイル機器、電子デバイスのほかに、電気自動車やヘルスケア関連のブースが昨年よりだいぶ増えたように感じます。
写真7 パペロがデモを行っていたデジタルヘルスケア・プラザです。ロボットやネットワークと連携した健康サービスは、今後ますます需要が高まりそうです。
アイロボット社の日本総代理店セールス・オンデマンド社のブースでは、掃除ロボット「ルンバ」のデモが行われていました。このルンバ、世界で最も売れているロボット家電と言ってよいでしょう。すでに世界40カ国で500万台が販売されています。日本国内での販売台数は14万台ということですが、これを多いと見るか少ないと見るかは意見が分かれます。普通の電気掃除機が各家庭に1台はあることを考えると、まだまだ普及しているとは言えません。しかし、電気掃除機としては高価格帯でバッテリーの定期交換費用もかかることを考えると、健闘しているとも考えられます。
ただ、1年に1回、1万円のバッテリーを交換するのは負担だと考える方も少なくありません。もっとも電気自動車のバッテリー交換費用に比べれば大した金額ではないのですが。
写真8 床と畳・カーペット程度の段差は問題なくクリアできることをデモで実証しています。
500万台も販売されていると事故は避けられないのではないかと思い、ブースで解説をしていた方に聞いてみました。すると今まで、バッテリーの発火など深刻な事例報告はないとのことです。なお、ルンバは留守中に稼働させることも多いため、安全性の高いニッケル水素電池を採用しています。
ルンバのブースにはアイロボット社が開発した爆弾処理用ロボット「パックボット」も展示されていました。基本はアメリカ軍に販売しているものですが、アメリカの警察も購入しているとのことです。レスキューロボットと外観は変わりませんが、最大の違いは頑丈さに秀でている点でしょうか。1.8mの高さからコンクリートの上に落下させても壊れず、防水処理により水深1.8mでも稼働します。未来ロボット技術研究センターのレスキューロボット「Quince(クインス)」も高さ2mの落下試験に耐えられますが、商品化レベルでの耐久試験は行っていません。
写真9(左)、10(右) 多目的作業ロボット「パックボット」です。それにしても1体2,000万円で3,000体以上売れているとはすごいものです。爆弾処理作業でバラバラになった「パックボット」が、アイロボット社に送られてきたことがあるそうです(写真10)。人の代わりにロボットが犠牲になってくれたとして感謝状が同封されており、こうした感謝状は何通も送られてくるのだとか。
村田製作所のブースでは、今年もムラタセイサク君・セイコちゃんのデモが行われていました。ムラタセイサク君にエネルギー表示機能が加わっていましたが、これはスマートホームへのイメージ展開をしてもらうために考えたことだそうです。
日産自動車は電気自動車が普及した街の未来像をロボットカー「エポロ(EPORO)」を使って表現していました。発電用ソーラーパネル「ソーラーの木」は蓄電池にもなっており、周囲は非接触充電ゾーンとしてデモが行われました。「ソーラーパネルは常に太陽方向を向く」とあるので、ここにもロボット技術が使われるということですね。
写真11(左)、12(右) ムラタセイサク君のエネルギー消費量が可視化されました。このようにわかりやすい表現を使えば、子供にも(大人も?)エコを理解してもらえるのではないかと思います。写真12のエポロの開発担当者は、今から20~30年後に電気自動車が非接触充電で走り回れるようにしたいと言います。ただ、その頃私は高齢のため自分で運転するのは難しいかもしれません。あわせて自動操縦技術も実用化していることを願います。
浅間山片蓋川のロボットを東京ビッグサイトから遠隔操縦
10月6~8日、東京ビッグサイトで「危機管理産業展2010」が開催されました。本来、ロボットとはあまり関係ないイベントですが、今回は興味深い公開デモが行われました。東北大学(吉田・永谷研究室)、情報通信研究機構(NICT)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の共同ブースで行われた「超高速インターネット衛星WINDSを用いた不整地走行ロボットによる被災情報収集の公開デモ」です。
具体的に言うと、浅間山片蓋川に置いたロボットを東京ビッグサイトの会場から衛星経由で遠隔操縦するというものです。アームはマスタースレーブ方式でコントロールしています。会場でデモを行っていた吉田和哉・東北大学大学院教授に話を聞きました。ここでも以下、青字が吉田先生のコメントになります。
写真13 デモの指示をする(左)吉田和哉教授(東北大学大学院)とロボットを操縦する桐林星河氏(東北大学大学院博士課程 吉田・永谷研究室)です。
以前、ETS-VIII(きく8号)で実験をしたとき、静止衛星を往復させると1秒ほどの時間遅れが出来るという経験をしています。そこで1秒遅れても安定して作業ができる仕掛けを考えてきました。現地の様子をよりよく知るための情報伝達の仕方を研究してきたわけですが、今回のWINDSは回線が太いのでかなり高画質の動画像を1秒遅れ程度の時間差で見られるため、前回に比べたら、かなり実験はし易くなりました。研究としては、クオリティが高くなくてもCGなどのモデルによってスレイブアームの様子を推察できる仕掛けをつくり込んでいます。
ビッグサイトの会場から、浅間山片蓋川の様子を画面で見せてもらいましたが、画質の高さには驚きました。岩石の調査や採取作業等、これだけ高画質であれば効率良く研究が進められるに違いありません。
実際に実用化しようとトータルで考えると、通信の現場設営の問題、つまりAC電源が必要だったり機材もそれなりに大きくなってしまいます。これらをもっとポータブルにしていくということは技術としては必要です。また、ロボットとしても信頼性を高めていかないといけないなど、まだまだ課題はたくさんありますが、1つひとつの技術はいま積み上げつつあります。実際に火山で噴火活動が始まってしまい、人が近づけないけど何かを見に行きたいと、そういうときに役立てるようなものを作っていかないといけないかなと思っています。
動画1 右端のモニタが浅間山片蓋川で作業するロボットの映像です。左端のモニタはロボットアームの先にあるカメラ映像で、岩石の特長をよく映し出しています。マスターアームの操縦によりロボット上のスレーブアームが作業することがわかります。
動画2 ロボットが傾くと、同じ角度で手元のマスターアームも傾きます。傾斜地でロボットを作業させる場合でも操縦しやすいように配慮されているのです。
動画3 ロボットを操縦していた桐林氏によると、衛星通信回線が普通のLANと変わらず使えているので、普段の操作システムがそのまま使えるとのことです。
東京消防庁のブースでは救出ロボット「ロボキュー」のデモが行われました。隊員は週に1回3時間ほどロボットの操縦訓練をしているそうです。東京消防庁に1体だけあるこのロボット、宝くじの1等賞が当たらないと買えない値段だそうです。また、隊員が実際に要救助者になってロボット取り込まれる訓練を経験したそうですが、特に痛みや恐怖を感じるようなことはなかったとのことです。
動画4 人間を救助する目的で作られたため、ダミー人形のように堅い物を扱うのは難しいようです。ダミー人形がロボットに押されて動いてしまうため、手前の隊員が足で押さえています。人間であればこのような問題は起きません。
■コラム執筆担当
先川原 正浩さん(Sakigawara Masahiro)
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター 室長
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