あらゆる環境で自律移動する「つくばチャレンジ」
1月9日、バンダイナムコゲームス未来研究所にて「つくばチャレンジ2009開催記念シンポジウム」が開催されました。基調講演を行った油田信一教授(筑波大学)は、「つくばチャレンジ」の歴史や2009年大会の報告を行い、最後に次のように締めくくりました。
「学会からも企業からも『つくばチャレンジ』に対して良い評価をいただいている。特に外国の方からは何でそんなことができるのかと。賞金も研究費も出ないのに50チームを超える団体がロボットをつくってくるというのは、日本というのはなんてクレイジーな国なんだと、たいへんうらやましいという気持ちを含めて評価をいただいている」
外国人にとっては「不思議な国ニッポン」という印象なのかもしれませんね。
| 写真1 知能移動ロボットの権威である油田信一教授(筑波大学)は、つくばチャレンジ委員会委員長やマイクロマウス委員会委員長も務めています。 |
「つくばチャレンジ」では毎回コースが難しくなっているにもかかわらず、参加チーム数、トライアル通過数が増大しています(表1)。おもな理由は、参加チームにできるだけ技術情報や経験を公開するよう呼びかけているからだと思われます。昨年は「第10回 計測自動制御学会 システムインテグレーション部門講演会」(SI2009)のオーガナイズセッションで活発な意見交換が行われていました。
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参加登録数 |
出走数 |
トライアル通過数 |
課題達成数 |
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第1回(2007年) |
33 |
27 |
11 |
3 |
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第2回(2008年) |
50 |
47 |
22 |
1 |
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第3回(2009年) |
72 |
65 |
34 |
5 |
関連講演として橋本秀紀准教授(東京大学)から、「つくばチャレンジ」はレース(競争)ではなく、なぜ『チャレンジ』なのか」との話がありました。橋本氏は2年前の講演で、自動車産業が花開いたのは自動車レースが大きく華やかになったことと、自動車が道路を使用するために規制を緩和したことが要因だろうと話されました。「つくばチャレンジ」のようなロボットレース、つまり競争によってロボット技術が進歩するというわけです。当時、橋本氏はレースとチャレンジの違いをあまり意識していなかったとのことです。
| 写真2 つくばチャレンジ委員会副委員長の橋本秀紀准教授(東京大学)の講演は、わかりやすいうえに風刺がきいており、たいへん楽しめました。 |
「自動車の場合、120年前から内燃機関(エンジン)と4つのタイヤ、ハンドルの構成で道を走るという、基本コンセプトは変わっていないのです。コンセプトが変わらない中で競うことをレースと呼び、『チャレンジ』とはコンセプトそのものの変革を競うものです」との話は、たいへんわかりやすく納得のいくものです。「つくばチャレンジ」に参加する移動ロボットが、車輪、GPSやレーザレンジファインダーを使うということが定番になってくれば、それはチャレンジではなくレースとなるという可能性もあるのです。
橋本氏は「移動ロボットの基本コンセプトは30~40年前にすでに出尽くされてしまったかもしれません。自動車のコンセプトが120年間変わっていないように、移動ロボットのコンセプトを画期的に変えることは難しいかもしれません」と語りました。コンセプトの変革を実現するためには、体験や知識の共有を図ることが重要だろうと言います。
「1人で考え続けるよりも、今回のようなシンポジウムや論文発表で知識を共有することにより進歩の時間を短縮できるのです。共有を阻害するものは秘密で、秘密があると競争になります。競争に勝つためには相手の情報を知って自分の情報は出さないことです。競争ではコンセプトの変革は望めません。大いに知識を共有しようではありませんか」と講演をまとめました。
この話を聞いて、NHKの高専ロボコンを思い出しました。高専ロボコンではトーナメント方式で高得点を獲得したチームが優勝となるのですが、優勝よりも権威のある「ロボコン大賞」が設けられています。得点を稼ぐ技術も大事ですが、画期的なアイデアの実現を期待してつくられたロボコンなのですね。
「つくばチャレンジ2009」の課題を達成した5チーム(富士ソフト/筑波大学MRIMプロジェクト、日立製作所機械研究所自律移動技術研究会、宇都宮大学尾崎研究室B、千葉工業大学fuRoアウトドア部、東北大学田所研)による技術発表も行われました。以下に、私が所属するfuRoの発表「つくばチャレンジ2009における屋外自律走行システムの開発」について簡単に紹介します。
| 写真3 千葉工業大学fuRoアウトドア部の入江氏は、自己位置推定、システム統合を担当していたとのことです。 |
発表はfuRo研究員の入江氏です。入江氏は、コースである「つくば市中央公園周辺歩道」において、ランドマークが少ない場所、狭い通路、環境が変化することがロボットの走行にとって困難だと分析しています。この分析結果から、3つの方針を掲げました。
1つ目はレーザスキャナーを3次元にして視野を広げることです。これはランドマークが少ない場所への対策であり、変化する環境中でも変化しない特徴を観測できるというメリットがあります。レーザスキャナーの中心軸を斜めにずらして円錐状に回転させることにより、1つのセンサで3次元的に広い視野をカバーできます。
2つ目はジャイロによる高精度なレッドレコニングを目指し、自己位置推定を正確に行うことです。ランドマークが観測困難な場所では、オドメトリのみで何とか走行できるだろうと考えたと言います。実際、スタート地点ではオドメトリのみで走行しています。3つ目は障害物認識・回避機能を設けることです。狭い通路では周囲の環境を認識して経路計画を立てるためのものです。
| 写真4 システム構成は非常にシンプルです。 |
fuRoではステレオカメラによる自己位置推定や、画像特徴から道路境界を検出する技術も持っており、つくばチャレンジでもそうした技術を採用するか検討したとのことです。しかし、レーザほどの信頼性は得られないだろうとの判断で採用しなかったのです。限られた時間や資源の中では、使用する技術を絞り込むことも重要なのかもしれません。
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写真5 レーザスキャナーは1個しか使用せず、GPSも搭載していません。 |
写真6 レーザスキャナーでは外界がこのように見えています。画面中央下部の青い三角印がロボットの位置を表しています。赤はレーザの軌跡を、その他の色部分は柱や壁などのランドマークや障害物です。 |
完走のためのポイントとしては、正確な自己位置推定のためにナビゲーション中にゼロ点校正を行い、端数をむだにしない計算で累積誤差を軽減する、事前に用意した地図と局所格子地図とのマッチング、3次元の広範な情報を利用することなどが挙げられていました。また、試走会の際に人為的に障害物をつくって回避実験を行うなど、完走するためには想定できるさまざまな条件でロボットを走らせておくことが欠かせないようです。
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写真7 技術発表時には質問する時間が限られていますが、ポスターセッション会場では心ゆくまで質問することができます。写真は千葉工業大学fuRoアウトドア部のブースです。 |
写真8 ナムコが開発した「ニャームコ(1980年発表)」(左)と、カバーを外した「マッピー(1981年発表)」が飾られていました。初期の迷路探索ロボットですが、言葉をしゃべるなどエンターテインメント性が高いロボットだったのです。 |
午後のポスターセッションでは40チーム以上がブースを出し、パネルだけではなく「つくばチャレンジ2009」に参加したロボットも展示されていました。ロボットを前にしながらの情報交換は、参加者にとって非常に有意義なものとなったことでしょう。
| 写真9 つくばチャレンジ委員会副委員長の水川真教授(芝浦工業大学)は、「技術の共有」と題して講演を行いました。つくばチャレンジ参加ロボットへのRTC-CANopenの適用事例を紹介し、開発期間が短縮できたと言います。 |
今年の「つくばチャレンジ」は11月18日(木)、19日(金)の両日に開催されます。コースやルールは未定ですが、GPSの使えない屋内移動や交差点での一時停止といったハードルを設ける検討もされているようです。詳細は公式ホームページでご確認ください。
なお、1月29日、つくば市は「搭乗型移動ロボット」の実証実験特区の認定を内閣府から受けたと発表し、早ければ今夏から走行実験が始まるようです。自律移動ロボットや搭乗型移動ロボットが公道を行き交う様子を想像するだけでワクワクしますね。
■コラム執筆担当
先川原 正浩さん(Sakigawara Masahiro)
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター 室長
http://www.furo.org/


















