最近のロボット関連のニュースで、パナソニックが医療支援ロボット開発に本格参入するという記事が、新聞などで大きく掲載されました。また私の周りでも、医療・介護とあまり接点のない異業種の企業が、介護・介助サービスへのロボット導入に熱い視線を向け始めています。
そこで、今回のコラムでは産業技術総合研究所が開発した医療介護系のサービスロボットで、セラピー効果の高い赤ちゃんアザラシ型ロボット『パロ』(図1)を取り挙げます。「何をいまさら・・・」と思われるかもしれませんが、最新のパロが第8世代であることに驚かされると同時に、その魅力を再認識させられました。私の手法で、パロの製品コンセプトを分析してみます。
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図1 アザラシ型ロボット『パロ』 パロは、アニマルセラピーと同等の効果を得るために必要とされる機能を、見事に「RT」で置き換えていることに驚かされます。パロが狙うサービス事業分野は、医療・介護サービス分野です。さらに、その中の「動物介在療法」にRTイノベーションを起こしたと言えるでしょう。 |
パロの対象ターゲットには、2つの用途が挙げられています。
(1)介護老人保健施設や病院などの福祉施設や医療施設でのセラピー
より具体的な対象としては、「認知症者を含む高齢者」や「自閉症やダウン症などの子供」が挙げられています。
(2)諸事情によりペットを飼えない場合の代替
より具体的な対象としては、「ペットを飼うことができない単身高齢者」「住宅事情によりペットを飼えない人」が挙げられています。
ロボットビジネスとして見た場合、(1)の用途に関しては、特にロボットを導入する必然性があるように感じます。なぜなら、実際の動物では感染症の恐れがあり、また引っ掻きや噛み付きなどの事故が想定され、病院や高齢者施設では、動物の管理を含めた5S活動が難しいからです。また、別の視点から見ると、人には癒し効果があったとしても、動物たちにとっては精神的な負担になることも予想されます。さらに、生き物は必ず死を迎えるわけですから、もし動物が亡くなったときに患者さんが「ペットロス症候群」(ペットを失った悲しみで起こる精神疾患)に陥ることも予想されます。生きた動物を扱うことは、長期入院を余儀なくされる患者にとって、最適な選択ではないかもしれません。
人手不足に悩む介護・介助サービスの現状を考慮すると、本物の動物の代替としてセラピーを実践できるロボットの需要は高まっていくと予想されます。
ここで、パロの魅力について整理してみます。
私がサービスロボットの開発時に、コンセプトを整理する際に用いる価値評価リスト(図2)の各項目に、パロに関する参考文献(*)の内容をもとに該当する内容を当てはめてみました。その結果、10個の小項目すべてにおいて該当する内容があり、それらのバランスもすばらしいと感じました。以下に紹介します。
*NEDOBOOKS編集委員:RTスピリッツ ~人に役立つロボット技術を開発する~ , “独立行政法人 産業技術総合研究所 知能システム研究部門 柴田崇徳 , 世界一セラピー効果のある赤ちゃんアザラシ型ロボットパロを開発” , pp.26-33. , 2009.3.)
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| 図2 サービスロボットに求められる価値 5つで構成される『機能価値』が「技術的な強み(PR)」となり、同じく5つで構成される『感性価値』が「+αの訴求力」を生む。この2つの価値のバランスを調整することで、既存の社会システムに変革を起こし得る魅力あるサービスが創出される(=『経済価値』)。そして、それらが一般社会に拡がることで、新たなライフスタイルを確立する(=『文化価値』)。 |
まず、『機能価値』について簡潔にまとめます。
(1)機能性:光センサ、ひげ触覚センサ、面触覚センサ、姿勢センサ、温度センサなどの入力信号に応じて、スピーカから鳴き声の音出力、まぶた・首・前足・後足に搭載された静穏型知的アクチュエータ機構の出力により、愛らしい動きを実現しています。アニマルセラピーに近いセラピー効果を得るための機能性を十分に持ち備えています。
(2)安全性:実証実験を重ねながら、より安全性を高めるために、ロボット本体に抗菌加工や電磁シールドを施しています。介護老人保健施設での実証実験は、1年以上の間、無事故という実績があります。
(3)保全性:パロの毛皮は、防汚加工が施されています。ところが、1年以上使われているパロを見ると、段々と手垢などで黒ずんでいるように思えます。私見としては、現在の構造では不可能だと思われるが、「アザラシの人形部分だけ外せて丸洗いできる」とか、「水の要らないパロ用の泡シャンプー」などがオプションであると、ユーザーの購買意欲は増すと思われます。
(4)耐久性:パロの体内の神経とも言える電子配線は、1枚当たり4層でプリントされた基板の内部に埋め込まれており、長期間安心して使うことができます。また、最新の第8世代のパロでは「10万回撫でても故障しないか?」「2万ボルトの電圧をかけても動きが止まらないか?」などのテストを重ねており、それらに耐え得るようになっています。介護老人保健施設での実証実験は、1年以上の間、無故障という実績があります。
(5)信頼性:配線を少なくすることで、耐ノイズ性が向上し、軽量化にも寄与しています。また、パロで使用されている電子基板は、クリーンルームで最先端のチップマウンタが積載作業を行い、加えて画像処理機で自動検査され、基板の信頼性を確保しています。
続いて、『感性価値』について簡単に整理します。
(1)デザイン:タテゴトアザラシの赤ちゃん(カナダ北東部に生息)をモデルとしている。非常に愛らしく、誰もが撫でたくなる飽きの来ない外観デザインです。
(2)こだわり:パロのまつ毛は、丁寧に手縫いで縫い付けられています。また、パロの顔付きは、専門のトリマーがハサミを使って1体ずつ心を込めて仕上げています。私見としては、このストーリをもっと前面に出した方が、より強い共感を生むと考えます。
(3)調和:医療施設など、使用される空間と調和しやすい外観デザインです。パロの綺麗な白い毛並みは、清潔なイメージを保ちたい医療介護施設側への配慮も感じられます。
(4)共感:手づくりの温もりが外観に感じられることで、中に基盤やセンサ群が埋め込まれた機械システムである『堅さ』がうまく消化されています。
(5)遊び心:バッテリー充電時は、おしゃぶり型のコードで行います。充電コネクタをわざわざ本体に差し込む作業はとても面倒ですが、おしゃぶり型のコードだと、その行為自体に別の意味や感情が生まれます。充電中のパロは、機械システムであることを露呈することなく、クスッと微笑する愛らしさを保っています。おしゃぶりがピンク色で、ハート型モチーフなところもかわいらしいです(図3)。
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図3 充電中のパロ(大阪市のロボットラボラトリーにて撮影) |
サービスロボットが社会に受け入れられていく有望な市場として、『介護、介助サービス分野』は間違いなく候補に挙げられると思います。介護・介助サービス分野は、安全性の確保に対してハードルが高くないパロのような癒しロボットから、実用化は進んでいくでしょう。
ただし現状では、それらのロボットはスタンドアローンで活用されています。今後、癒しロボットが人の健康に関る有効なデータを獲得し、それらがネットワーク化された空間側で活用され、新たなサービスが生まれてくることが予想されます。例えば、安心・安全分野のサービスや、癒しロボット自身がインターフェースとなり、患者のエージェントの役割を果たすようになると考えています。
■関連サイト
パロ~人の心を豊かにするメンタルコミットロボット~
http://paro.jp/
抱きしめたい!ロボットコンテスト2007結果発表 ベスト10
http://robonable.typepad.jp/news/2007/11/2007_bab6.html
■コラム執筆担当
小西 康晴さん(Konishi Yasuharu)
(株)ロボリューション 代表取締役
URL:http://www.robot-revolution.com/





