今年はロボット映画の大作が目白押しでした。その中でも特に世界的にヒットした2本の映画のDVD&Blu-rayが、今月相次いでリリースされます。ロボットファンのみなさんに、年末年始休暇を利用してぜひじっくりと楽しんでいただきたい2作品を紹介しましょう。
「G.I.ジョー」:ナノロボットとハイパー・スーツに注目
12月11日、映画「G.I.ジョー」のDVD&Blu-rayがリリースされます。本作品は「トランスフォーマー」の製作陣、「ハムナプトラ」の監督によるアクション超大作です。10年先の近未来が舞台であり、いくつか気になるテクノロジーも登場します。
ストーリーに登場する邪悪なテロ組織「コブラ」が強奪した科学物質「ナノマイト」は、あらゆる金属を食べ尽くします。金属を腐食させるのではなく消滅させるのです。そして、「ナノマイト」は遠隔操作で活動をストップさせることもできます。操作可能なら「ナノマイト」は科学物質というよりも、目に見えない微少なロボットと考えたほうがよさそうです。もっとも、そんな風に考えるのは、私を含むロボット関係者だけかもしれませんが・・・。
著書「創造する機械 ―ナノテクノロジー」などで知られるK.エリック ドレクスラーは、「生態学の本を少しはかじったから、生物の世界がどのようなしくみになっているか、多少は理解しているつもりだ。それから考えると決して簡単ではないが、いくらでも手に入る広範囲な合成物を使って、自然界のなかでも作動でき、自己複製のできるような種類の機械を作れることははっきりしていた。ところがそれはどんな疫病よりも、どんな虫害よりも始末が悪い。悪くすると有機的物質をむさぼり食う能力も持ちうる。しかもこの場合は天敵も、生態学的歯止めもない以上、生物圏を全面的に破壊することも考えられる」と語っています(エド・レジス著(大貫昌子訳) , 「ナノテクの楽園」 , p.74 , 工作舎 , 1997.5. より引用)。
もし、人間によるコントロールができず、勝手に自己増殖を繰り返す「ナノマイト」であれば人類にとってすさまじい脅威となるでしょう。しかし、コントロール可能であれば武器を破壊するなど、平和を実現するためのツールにもなります。技術には善し悪しもなく使い方次第であることを、映画の中で表現してほしかったですね。
ロボティクスを応用したハイテク戦闘服「ハイパー(アクセラレーター)・スーツ」にも注目してください。これを着用するとG.I.ジョーは時速100km程度で走ることができ、壁をぶち破ることも可能です。脚には薄いアクチュエータらしきものが見受けられ、作動音もモータ音のように聞こえます。ただ、あれだけの動きを実現するためには将来、実用化されるだろう人工筋肉も併用しているのでしょう。また、G.I.ジョーの基本的な戦闘服「リキッド・アーマースーツ」は筋肉組織の形状に沿ってつくられたスーツであり、身体を「流動性の筋肉」で防護するというコンセプトでつくられています。
広く知られているように、現実にはアメリカ軍もパワード・スーツを研究開発しています。米国防総省の代表訪問者が、パワード・スーツのコンセプトを検討する機会もあったようです。映画の方が国防総省より6~7年ほど技術が先行していると製作総指揮のデヴィッド・ウォマークは語っていますが、今後数年でハイパー・スーツを完成させるのは難しいのではないでしょうか。もしくは米国防総省の開発しているパワード・スーツは、われわれの想像以上に進化しているということなのかもしれません。
| 写真2 写真では相当ごつくて着心地が悪そうに見えます。実際、特典映像を見ると着込むだけでもたいへんな思いをしそうです。 |
ほかにも、インビジブル・スーツのように、身体の後ろ側を投影して透明に見えるスーツが登場するなど、現時点で存在するテクノロジーの進化形を発見する楽しみもあります。
セルBlu-rayには計50分もの特典映像が2つ付録で収録されています。最初に「メイキング・オブ・G.I.ジョー」から一部抜粋して以下に紹介しましょう。
メイキングを見て全体として感心させられたことは、スタジオセットが巨大であることです。また、俳優全員に2日間の武器訓練を行ったことにも驚かされました。ロス郊外の射撃場で実弾を撃ち、ライフルの扱い方を教わったそうです。
視覚効果監修のボイド・ジャーミスは、ハイパー・スーツについて次のように話しています。
「絵コンテやプレビズの担当者と8分半のシークエンスを考えた。ジェットコースター級のめまぐるしいものだ。ハイパー・スーツのスピードと機敏さ、パワーを見せつける。だが実写での撮影は難しい。ハイパー・スーツを着た俳優が走るところを撮影してみたが、うまくいかない。そこでモーションキャプチャを使い、俳優が走ったり物をよけたり飛び越えたりし、集められた情報をスーツに入力する。CGを駆使し俳優の走り方を加工して、とても自然な感じに時速80kmで走れるよう演出した」
ちなみに、このハイパー・スーツの着心地は最悪なようで、メイキングを見ると俳優たちがそれを着ることを心底嫌がっている様子がわかります。
| 写真3 カーチェイスのシーンはスローで再生してみましょう。飛んでくるミサイルの弾道とそれをよけるG.I.ジョーの動きがいかに精緻につくり込まれているか実感できます。 |
ハイパー・スーツを着たG.I.ジョーのカーチェイスについて、8秒のショットをつくるのに発案から完成までにほぼ1年間かかっているそうです。2人のG.I.ジョーが空中を猛スピードで飛ぶシーンでは、カメラを時速72kmで前進させたまま人物を1秒120コマで動かし減速させます。背景はすべて3Dでつくっています。通り全体を高解像度で撮影した写真やすべての建物のデータをもとに3D環境で通りを丸ごと再現しているのです。車もすべて3Dで作成し、横転して爆発し地面に激突する動きをつけています。
エッフェル塔崩壊、水中の戦闘、空中チェイス、殺陣のシーンいずれの制作方法も、非常に興味深いものでした。
| 写真4 ナノマイトに浸食されたエッフェル塔の崩落シーンです。特典映像を見るとCG技術者たちのこだわりが感じられるところです。 |
2つめの特典映像は「次世代アクション G.I.ジョーの視覚効果とデザイン」です。本作品は、予算を組んだときから映画の完成までにショット数は予定の3倍、視覚効果の難易度は2倍になったそうです。映画冒頭の輸送隊が襲撃されるシーンでは、悪役の戦闘機はすべてCGでつくられており、兵器は音波を利用しているのです。アパッチ・ヘリが音波砲で撃ち落とされるまではCGで、落ちる途中から実写に変わり爆発シーンはすべて実写という撮り方をし、違和感のない世界をつくり上げているのです。特典映像を見てから作品を見直すと、より深く楽しむことができます。
「トランスフォーマー/リベンジ」:ロボット・デザインのヒントが満載
「トランスフォーマー/リベンジ」のDVD&Blu-rayは「G.I.ジョー」に遅れること1週間、12月18日にリリースされます。作品内容についてはTVやWebサイト(http://robonable.typepad.jp/column/2009/06/294-4d49.html)で情報公開されているので、ここでは付録の特典映像に絞って紹介しましょう。前作の「トランスフォーマー」が2007年7月3日に劇場公開、それからわずか2年足らずで続編の「トランスフォーマー/リベンジ」が公開されています。これだけの大作を短期間で仕上げ、全世界で同時期に公開するためには、裏でさまざまな苦労があったことが特典映像を見るとよくわかります。
はじめに「メイキング・オブ・トランスフォーマー/リベンジ」からの抜粋です。ロボット美術監督のベン・プロクターいわく、「デザインを考えるときはシルエットから始める。シルエットによってパーソナリティを表現できる。キャラクターを一目見たときに肩幅や腕が印象を決める。がっしりとした体格の戦士か? 小回りの利く偵察用ロボットなのか? シルエットだけで判別可能だ。下書きができたらディテールを加えたイラストを描く。リアルに見えるように光と影を入れ変形する車の写真も使う。フォトショップで写真を切り貼りするんだ。そして、実写映像にもなじむようにさらに加工する。コラージュを重ねるんだ。重量感を強調したデザインに本物の車のパーツを加える。そこに光と影の効果を加え、実写の印象に近づける。ここまで完成したら人に見せる」だそうです。
変形させる車を見てからロボットのデザインイメージをおこすのではなく、ロボットのデザインが先で後から車のパーツを当てはめていくとは意外でした。本物のロボットを設計する際には、モータやバッテリー、配線などいろいろ考慮する必要があるため、デザインは後回しにされることが多々ありますが、デザイン最重視でつくられる方には参考になるのではないでしょうか。
また、ベン・プロクターはこんなおもしろい発言もしています。
「僕は車に興味がなくて構造もわからない。だが、ある意味それでよかったんだ。僕と違って車の構造に詳しい人も多い。彼らは部品を見慣れている。もし僕がそういう人間だったら知識がジャマをしてデザインに時間がかかる。僕は本来1つしかないものを2つに増やしてロボットに付けたり、平気でやってしまう。自由にデザインを描かせてもらってるよ。車のパーツを模様のように使い実際の形状は無視している。変形の構造を考える人にとっては面倒なデザインだ。だが、僕たちも時間がない。実際の構造を考えていたら間に合わないんだ。整合性を考えたデザインにするならNASAのように大人数が必要になる。僕は監督の好みに合わせて“クールな外観”を優先する。変形に関しては他の人に任せる」
本作品の制作スタッフで車に興味のない方がいたのは驚きです。それもそのことが良い仕事につながっているとは。実は、ロボット業界の有名人にも「本当はロボットに興味がない」と考えている方を数名知っています。しかし、そんな方々がけっこう良いロボットをつくっていたりするところがおもしろいですね。
スタジオの一角にある鍵付きでカメラ立ち入り禁止の部屋には、未発表のコルベットのコンセプトカーが置いてありました。自動車メーカーとしてはトップシークレットですが、「トランスフォーマー」の続編だから特別にGMが映画への採用を許可したのだそうです。
こうしたメイキングだけで2時間14分の特典映像です。2時間30分の本作品に匹敵する分量です。メイキング以外にも見応えのある特典映像が多数収録されており、それらを以下に記します。
「ベイさんとの一日」:マイケル・ベイの東京プレミアム当日を追っかけた映像です。なんと、試写会開始2時間前まで編集スタジオと交信し、視覚効果ショットの追加指示を出しています。
「トランスフォーマー25年の歴史」:ロボットの各キャラクターを認識できる程度に、25年間デザインを変え続けています。実際のロボット製作においても、同様の手法をとる方は多いようです。少しずつデザインを変えても以前の特徴を継承しているのです。
「トランスフォーマー:データ・ハブ」:英語表記のみのデータ集です。各ロボットの解説、オリジナルのアニメ画、コミック、設計図、ILMでの作成したCG、玩具写真を楽しめます。
「プレビズ映像」:撮影開始の18カ月前から、どのように撮るかをCGで映像化しておきます。スティーブ・ヤマモトの協力を得て大まかなプレビズを制作し、リアルな映像を生み出しているのです。ヤマモト氏の音声解説により、没ネタやテスト映像もあり楽しめる。絵コンテだけではなく、ここまでCGでつくりこまないと複雑なアクションシーンは制作できないのでしょう。カメラアングルも自在です。
「削除シーン」:シャイア・ラブーフの両親が登場するコミカルなシーンは、もっとあったほうが良かったように感じました。
「リンキン・パーク ♪ニュー・ディヴァイド」:映画のシーンを効果的に盛り込んだミュージック・ビデオです。
以上はDVD、Blu-rayともに収録されていますが、Blu-Rayだけに収録されている映像を以下に記します。
「オールスパーク」:英語表記のみです。好きな車や戦闘機を選択、オプションパーツを取り付けオールスパークでロボットに変身させて遊ぶことが出来ます。
「撮影日誌」:エジプトの撮影風景が秀逸です。一見楽しそうですが過酷なロケであることは明白です。
「マーケティング」:劇場用予告、TVスポット集、ギャラリー(劇場公開時のポスター、プロモーション/マーケティング)が収録されています。
以上、ロボット関係者としての視点から書いてきましたが、一映画ファンとしては両作品ともにできるだけ大音量で楽しんでいただけたらと思います。特にBlu-rayであれば「G.I.ジョー」は5.1chドルビーTrueHD、「トランスフォーマー/リベンジ」は5.1chDTS-HD Masterの高音質規格で収録されていますので、対応しているアンプで再生するとその素晴らしさが実感できると思います。まさに鳥肌が立つほどの感動を味わえます。
最後に、2011年7月1日に「トランスフォーマー3」が全米で公開されると、マイケル・ベイ監督から発表がありました。今度はどんなロボットたちが登場するのか、今から楽しみです。
■コラム執筆担当
先川原 正浩さん(Sakigawara Masahiro)
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター 室長
http://www.furo.org/

