富士ソフトが開発した本格的な教材用ヒューマノイド
富士ソフトが教材用ヒューマノイドを開発し、両国国技館で開催された「第21回全日本ロボット相撲全国大会」にて試作品が披露しました。まずはロボット相撲大会の様子からリポートします。
| 写真1 土俵周辺はロボット同士がぶつかった衝撃で部品が飛び散るため危険です。試合中にゴーグルをしないと失格になるというルールが設けられたほどです。 |
「全日本ロボット相撲大会」は、富士ソフトが1990年より開催しているもので、これまでの参加者数はのべ10万人を超えています。今回の全国大会のエントリー数は1,118台、地区大会を勝ち抜いた90台が出場し、熱戦が繰り広げられました。優勝賞金100万円、準優勝50万円、3位30万円という賞金金額は、ロボットコンテストではトップクラスです。
全国大会の結果は、自立型1位とラジコン型2位、3位は香川県立三豊工業高校、自立型2位、3位とラジコン型1位はTeam-Qでした。2つの団体が上位を独占しているのです。団体内で研鑽し合い、練習試合を繰り返して経験値を高め、そこに勝つためのノウハウが蓄積されているのでしょう。
| 写真2 練習では試したことがないほど出力を上げて試合に臨んだ結果、リチウムポリマー電池が発火してしまいました(写真左)。ここまで燃え尽きてしまった相撲ロボットを見たのは初めてです(写真右)。 | |
ロボットの規格は幅・奥行き20cm以内と決められています。土俵の直径が154cmですので、試合の場としては十分な広さです。しかし、最近はロボットのスピードが格段に上がり、1秒程度で決着がついてしまうケースが多くなっています。つまり、ラジコン型では勝負が決まるまでに操作レバーはほんの数回しか動かせないものと推察できます。審査委員の西村輝一氏(いすゞ中央研究所 取締役)も解説していましたが、ロボット自身がかなり自律的に動かないとラジコン型であっても勝ち進めないのかもしれません。例えば、操縦者の指示がなくても土俵から落ちないよう、ラジコン型であってもマイコンを搭載し、ロボットが土俵際の白線を読み取り回避する機構を持つことです。
| 写真3 ロボットが表面の塗装部分を削ってしまうこともしばしばで、審判がマジックで黒く塗り直します。削られ方がひどい場合には、金槌で叩いて土俵を平らに補修します。 |
上記の大会で試作品が公開された「教材用ヒューマノイド」(名称未定)について紹介します。なお、富士ソフトは昨年、自律型移動ロボット事業に参入することは発表しましたが、ヒューマノイドの開発は初めてです。製品発表の記者会見は1月下旬を予定しています。高専や大学の教材用として、また企業の教育・研究開発用に向けて開発されたものです。
ハードウエアの仕様はCPUがインテルAtom(1.66GHz)、メモリ2GB、モータ可動部位20軸、内蔵フラッシュ4GB、音声認識マイク、音源再生用スピーカー、圧力・測距・ジャイロ・加速度センサ、30万画素カメラ、方位認識用マイク、頭部・胸部LED、無線LAN、リチウムイオンバッテリー、高さ39.8cm、重量1.56kgとあります。ソフトウエアの仕様はOSがリアルタイムLinux(Ubuntu Linux)、専用プラットフォームミドルウエア、開発環境はEclipse+専用クラスライブラリ、サンプルアプリケーション(オープンソース)、モーション作成ツール、会話作成ツール、プログラミング言語はC++です。
| 写真5 製品発表まで1カ月ということもあって、ハードウエアはほぼ完成しています。細かな動きの調整や、購入後のサポート体制等、発売までに開発部がやらなければならないことは山積みです。気になる販売価格ですが、30万円以内を目標にしているようです。 |
今回の試作品デモは、特に目新しい歩行動作は行われませんでした。しかし、関係者から聞いた話では、歩行中に平地から不整地に路面が変化してもロボットが自動で認識し、数歩で安定した不整地歩行を実現しているとのことです。また、富士ソフトは国家プロジェクトである「次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト」にも参加しており、社内でロボット用ソフトウエア開発者の育成に力を注いでいます。
究極の遠隔操縦ロボット「サロゲート」
「ターミネーター」や「トランスフォーマー」などハリウッド映画に登場するロボットやコンピュータは、たいてい人間のように意識や感情まで持ち合わせた知能を有しています。現在の技術ではこうした人工知能をつくることはまず不可能と考えられており、みなさんはこれらの映画を現実と無縁の空想世界のものとして捉えていることでしょう。それに比べ、今回紹介する映画「サロゲート」に登場する身代わりロボットは、前述した知能は持たずに人が遠隔操縦するという設定です。もちろん、実現がかなり難しそうな技術も多々見られますが、この映画のような世界が実際に訪れても不思議ではありません。
| 写真6 2010年1月22日(金)より全国ロードショー! (c)Touchstone Pictures, Inc. All Rights Reserved. |
それでは「サロゲート」のストーリーを一部御紹介しましょう。
14年前・・・
ロボット工学の発達により、人間の脳神経細胞をスキャンして“自分の分身”を自由に操作することが可能になった。
11年前・・・身代わりロボット《サロゲート》は、生産量拡大によって軍事用から産業用へと一般化。投票結果は5対4で、最高裁はサロゲートの日常使用を許可。
7年前・・・最大手メーカーVSI社の調査によると、人類の98%が日常生活にサロゲートを使用。犯罪、伝染病、人種差別が世界的に激減。人類の抱える難問は解決をみた。
3年前・・・サロゲート使用に断固反対の人権擁護団体は、サロゲート拒否の独立区を全国に設置。排斥運動を指導する《予言者》(ヴィング・レイムズ)は、メディアを通じて“まやかしを信じるな”と訴え続けていた。
そして現在・・・“サロゲート”と呼ばれる身代わりロボットが開発された近未来では、人類は快適で安全な自宅から遠隔操作するだけで、すべての社会生活をサロゲートに代行させられるようになった。もはや、リアルな世界に生身の肉体をさらす必要はない。アクシデントや犯罪によって危害を加えられても、サロゲートが破損するだけで、その使用者には何の影響もないのだ。おまけに、サロゲートの注文は完全オーダーメイド。理想の顔、ボディ、声、性別など、“なりたい自分”を手に入れることができる。100%の安全と、100%の自由──苦痛も犯罪もストレスもないこのユートピアで、人類は無限の幸福を手に入れるはずだった。
だが、起こるはずのない殺人事件が、このユートピアに暗雲をもたらす。あるサロゲートが破壊され、本来は無関係なはずの使用者本人が死亡したのだ。サロゲートへのダメージが使用者に及ぶとなれば、この社会のシステムが崩壊してしまう。捜査を開始したFBIのグリア(ブルース・ウィリス)は、サロゲートを開発したVSI社に事件の鍵があると推理する。だがそれは、サロゲート・システムに秘められた巨大な陰謀への、ほんの入り口にすぎなかった…。
| 写真7 未来のモニターシステムはもっと斬新なものにして欲しかったですね。また、サロゲートを製造する工場ですが、現在の産業用アームロボットが働いています。安川電機の双腕ロボットのような時代を先取りしたロボットを、さらに進化させたものであれば良かったように思います。 (c)Touchstone Pictures, Inc. All Rights Reserved. |
サロゲートのように、考えるだけでロボットを制御するブレイン・マシン・インターフェース(Brain Machine Interface:BMI)技術は、20年以上も前から研究されています。1980年代に慶應大学の舘暲教授(当時東京大学)が「遠隔“存在”技術」の概念である「テレイグジスタンスロボット」を提唱、その後、舘教授は通産省(現・経済産業省)のアールキューブ研究会にて中心的役割を担い、ロボティクスの未来予想を行っています。ちなみにアールキューブとは「リアルタイム・リモート・ロボティクス(Real-Time Remote Robotics : 実時間遠隔制御ロボット技術)」の3つのRをとったものです。詳細は1996年に日刊工業新聞社から発行された「アールキューブ 立花隆VS吉川弘之 ロボティクスの未来を語る」(現在は販売しておりません)で紹介されています。
また、昨年はホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)、島津製作所によるBMIの共同研究成果が発表されました。脳に電極を埋め込むのではなく、頭皮上の電位変化や脳血流の変化を計測してロボットに情報を送信するというものです。こうした最近のBMI技術を参考に、サロゲートの脚本は執筆されているのでしょう。上記の研究では頭皮全体を覆い尽くすように配置された数十個の電極から情報を得ています。現段階では、それだけ多くの電極情報を得ても、ロボットに手や足を挙げさせる程度のことしかできません。サロゲートの操縦システムでは、額(ひたい)部分に5個所ほど電極を取り付けるだけで、ロボットを自由自在に操縦しています。仮にサロゲートのような遠隔操縦が実現できたしても、サロゲートが見たり聞いたり感じた情報を人に送り、あたかも体感しているかのように人に感じさせる技術の完成は、だいぶ先になりそうな気がします。
サロゲートの試写会には、ロボット界の重鎮達や国家プロジェクトを統括する先生方も顔を出していました。この作品が単なるSF映画ではなく、一般社会に普及したロボットの利点や問題点を示唆しているからでしょうか。本作品を見れば、遠隔操縦ロボットが実用化される際には、通信システムの管理・運営がいかに大事かということがわかります。ロボットが犯罪に使われないよう、通信会社とメーカーが技術協力を行い、しっかりとしたセーフティシステムを構築する必要性を痛感しました。
映画の冒頭に石黒浩教授(大阪大学)と「ジェミノイド」や、アメリカで最も有名な日本人ロボット研究者である金出武雄センター長(独立行政法人 産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センター)が一瞬登場します。映画の冒頭だけではなく、本編にも日本のロボット研究者、技術者を登場させざるを得ないほど、メイドインジャパンのロボットが普及・活躍することを期待しています。
■コラム執筆担当
先川原 正浩さん(Sakigawara Masahiro)
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター 室長
http://www.furo.org/


