ロボット業界にとって非常に厳しい一年となった2009年が終わり、2010年が始まりました。まだまだ予断を許さない状況ではありますが、中国などアジア市場での需要拡大や、太陽電池や電動自動車などの環境・エネルギー関連製品といった新規分野の開拓、組立工程など新たなワークでの採用、設備投資の若干の回復など明るい兆しが見えつつあります。
今回は2010年の需要回復に期待を込めつつ、冷え込んだ産業用ロボット市場の中では数少ないホットな市場として2009年に注目を集め、今後の市場拡大が期待されるパラレルリンクロボットを中心に紹介します。
パラレルリンクロボットの注目が高まる!
パラレルリンクロボットは当社の2009年版のレポートでも産業用ロボット市場の新規品目として取り上げました。このほかロボナブル上でも何度か取り上げられていますし、昨年11月末開催の「2009国際ロボット展」でも複数社から出展されていたことから、すでにご存知の方が多いと思います。
従来のスカラ型ロボットや垂直多関節ロボットを「シリアルリンクロボット」とカデゴライズするのに対し、並列(パラレル)リンク構造を持つロボットを「パラレルリンクロボット」と定義しています。パラレルリンクロボットは、シリアルリンクロボットと比較して高価ですが高速な動作が可能で、これまでにも、おもに欧米の食品・医薬品業界の包装工程などを中心に採用されてきました。ところが、わが国では必ずしも馴染みのあるロボットではありませんでした。
では、まずはそのパラレルリンクロボットの市場規模推移(図)を見てみましょう。
2008年のワールドワイド実績では31億円程度の規模でしたが、2009年には約2.5倍となる79億円にまで急拡大する見込みで、その後も着実に成長を続けることが期待されます。
では、この新しいロボットというわけではないパラレルリンクロボットが、なぜ今になって、特に日本市場で注目され、実績を拡大させているのでしょうか? その理由を紹介します。
1.特許切れにより日系メーカーの参入障壁が緩和!
まず1つに、これまではABBやボッシュパッケージングテクノロジー、Adept Technologyなどの外資系企業が中心となって市場を開拓してきましたが、その基幹となるメカニカルパートの特許切れに伴い、日系企業をはじめ新規参入を目指すロボットメーカーにとっての参入障壁が緩和されたことが挙げられます。実際に2009年にはファナックや川崎重工業など従来、自動車分野を主力としていた日系の大手ロボットメーカーが新規参入するなど、活発な動きが見られました。また、安川電機が2010年春以降の上市を目指すなど、他のロボットメーカーも製品化に向けた取り組みを進めています。
2.パラレルリンクロボットによる新たな分野の開拓!
もう1つの理由として、主要ロボットメーカー各社は自動車や半導体分野などの既存市場の落ち込みを受け、その他の分野でのロボットの需要獲得に向けた取り組みを強化しており、パラレルリンクロボットの投入により新分野での市場開拓が期待されることも挙げられます。
中でも、ファナックによる取り組みが注目されます。パラレルリンクロボットの競合他社が食品・医薬品分野や太陽電池向けなどをメインターゲットとする中、ファナックは家電メーカーや車載電装品メーカー、EMSなどの電機・電子分野向けをターゲットに想定した安価な小型ロボットを上市することで新たな需要創出に成功しています。販売開始当初1,000台としていた2009年の年間販売目標を大幅に引き上げるなど、拡販に乗り出しています。これによりコストカットへの意識が高い国内製造業や近年、自動化への意識が高まり今後、積極的な設備投資が期待されるアジア家電メーカーやEMSなどに向けた市場開拓と需要拡大が進む見込みです。
また、パラレルリンクロボットは食品・医薬品業界向けが中心と言いましたが、わが国では同業界ではすでに専用機による自動化が進んでいることや、独自形状や動作機構に馴染みがないことなどもあって、あまり採用は進んでいませんでした。しかし、例えば食品業界では食の安全を確保するうえで人的ミスをなくすべくロボットによる自動化へと梶を切りつつあります。結果、パラレルリンクロボットの普及による機能および知名度の向上が進む見込みです。新規業界となるため短期間で需要が急拡大するまでにはいかないかもしれませんが、当面は既存の自動機の設備更新時の切り替え検討を中心に、食品・医薬品業界向けでも市場が拡大していくことが期待されます。そして、パラレルリンクロボットの普及により、周辺機器の市場拡大も期待できます。
ビジョンシステムなど周辺装置、設備との連携が重要になる!
パラレルリンクロボット単体では製造装置として機能しないことから、その導入には周辺装置、設備などを含むシステム構築が必要となります。
例えば、近年は各種製造業において品質要求の高まりから検査装置に対するニーズが高まっています。パラレルリンクロボットは構造上モーメントが小さく、比較的振動などが発生しにくいため、カメラやワークの支持に適しています。また、多次元の姿勢制御が可能なため多様な検査ワークでの採用が期待されています。画像処理との組み合わせによるワークの位置決めや、形状認識や外観検査などを行うロボット用ビジョンシステムなどと合わせた提案などが考えられています。
ただ、例えばこれまでパラレルリンクロボットの採用の中心となってきた食品業界向けでは、おもに食品包装機械メーカーなどがシステム対応を行ってきましたが、専門スキルが要求されるために限定的なものとなっていました。今後、ロボットメーカーが実績を拡大するためには、技術サポートの充実とシステム対応に長けたSIerの育成が、これまで以上に重要な課題となってきます。これは食品業界だけでなく家電やEMSなど電機・電子分野への展開時にも当てはまります。
また、日本やアジアにおけるパラレルリンクロボットの認知度が低いことから、まずはロボットの導入メリットや、導入可能なアプリケーションおよびワーク内容を具体的にユーザーに対してPRしていく必要があるでしょう。
これらのことはパラレルリンクロボット以外の産業用ロボットにおいても当てはまります。これからのロボットメーカーが他社との差別化を図り、厳しい市況の中で打ち勝つためには、ロボットを中心とした自動化システムの提案など、ロボットメーカーとしての総合的な提案力がこれまで以上に求められるでしょう。
富士経済としてできることは?
パラレルリンクロボットは注目されている市場であるとはいえ、ロボットメーカーにとっても、それを採用するユーザーにとっても、このロボットにどう取り組んでいけるのかが明瞭でない状況にあると思います。
市場調査会社として産業用ロボット市場に携わる当社としても、例えばパラレルリンクロボットの新たな需要先として注目される電機・電子分野や食品・医薬品分野などのユーザーはロボットに対してどのようなニーズを持っているのか、そのほかにどのような分野やワークでの導入が期待できるのか、そして、ロボットメーカーに今後求められる提案方法はどういったものなのかといった、より実用的なマーケティングデータの提案などにも、より一層力を入れて取り組んでいくことが必要と考えています。
次回は、こちらも従来と異なる取り組みが求められている「サービスロボット市場」の動向を紹介します。
■コラム執筆担当
武林 周一郎さん(Takebayashi Syuichiro)
㈱富士経済 大阪マーケティング本部 第一事業部
URL:http://www.group.fuji-keizai.co.jp


