科学技術連携施策群 次世代ロボット連携群「次世代ロボット共通プラットフォーム技術の確立」で主監補佐を務めた産業技術総合研究所の大山英明氏はロボナブル編集部の取材に応じ、昨年末に文部科学省より公開された事後評価の詳細を解説。同連携群では「国内の研究機関に広く利用されることを重視していた」ことを受け、ATRの「施設内外の人計測と環境情報構造化の研究」に「A」評価(*1)が下されたことを明らかにした(写真はユニバーサルシティウォークでの人の位置計測の例)。2009年10月時点で計8機関が構築した「関西環境プラットフォーム」を利用し、総務省と経済産業省の両省のプロジェクトでも活用された点が高く評価された。また、論文発表および特許取得がそれぞれ4件と、同規模の研究プロジェクトの水準を超えたことも加味されたという。
同連携群は、各府省が推進するロボットの研究開発を加速し、かつロボットによるサービスの発掘を可能にする共通プラットフォーム技術を開発、提供するプロジェクト。大きくは「分散型コンポーネント型ロボットシミュレータ」(産総研)と「環境情報構造化」の研究開発が取り組まれ、後者では「ロボットタウンの実証的研究(場の計測)」(九州大学)と「施設内外の人計測と環境情報構造化の研究(人の計測)(*2)」(ATR)、「環境と作業構造のユニバーサルデザイン(物の計測)」(産総研)の3つの切り口から取り組まれた。
ATRによる「人の計測」は、他の研究機関が利用したことに加え、計測対象を人の位置や行動に限定することで技術的課題をクリアした目標設定、論文発表と特許取得、一部システムの「人物・位置行動計測システム」としての製品化と3件の販売実績(2009年10月時点)、プロジェクトの継続性が高く評価された。現在は、大阪南港のATCに施設を移転し、マーケティング用途での実用化が検討されている。
研究計画のミッションステートメントでは、「本プラットフォームでロボットが人に円滑なサービスを提供できること」が明記されていたが、例えば、POSデータとのマッシュアップによりAIDMA(アイドマ)を把握できるなどマーケティング用途での可能性が見出されるなど、人への情報提供によるサービス品質の向上が検討されている。社会の至るところで、ロボットが人にサービス提供を円滑に行うというニーズは、必ずしもミッションステートメントの想定した方向で進展していないが、そうした方向性による様々な分野での応用の可能性やビジネス化に向けた発展が好意的に評価された。
同時に評価された、総合評価「B」の産総研による「物の計測」は、目標達成度や情報発信などの各項目で「当初計画と同等の取り組みがなされた」と公表されたものの、目標設定に対しては厳しいコメントがなされた。
「移動作業のために50mm、把持作業のために5mm程度の位置計測精度を目標」と、ミッションステートメントに明記していたが、5mmの精度では対象物との接触を伴うような作業を実行することができず(力覚センサを利用すれば可能だが)、ビジュアルマーカー「CLUE」(Coded Landmark for Ubiquitous Environments)により位置計測精度を保証する方法を採用した(写真左)。当初目標をクリアした点を評価する一方、「目標設定の甘さを指摘する声が一部評価委員からなされた」(大山氏)という。また、CLUEやロボットが扱いやすいユニバーサルハンドは、ユーザーによっては目障りに思われる可能性が指摘され、社会受容性を踏まえた検討が求められるとの指摘もなされた。さらに、同プラットフォームの利用を促すようなサービスコンテンツの開発の必要性も指摘された。
「物の計測」は今後、継承される開発プロジェクトは予定されていないが、研究代表者の大場光太郎氏がデペンダブルシステム研究グループのリーダーを務めることから、「dependability(信頼性)(*3)」を保証する技術開発を進め、稼働するロボットの安全性および信頼性の確保を目指すという。
他の九州大学による「場の計測」と産総研による「ロボットシミュレータ」の評価結果は、「平成20年度科学技術振興調整費の評価結果について」を参照してほしい。いずれの取り組みも「次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト」(2007~2011年)に継承されている。
なお、同連携群を構想した当初、様々な研究機関がテストベッド(試験用プラットフォーム)として活用できることをイメージしていたが、利用頻度は多いとは言い難い。かたや、韓国では昨年2月から仁川(インチョン)経済自由区域の青蘿(チョンラ)地区と慶尚南道・馬山(マサン)にロボットのテーマパーク「ロボットランド」(*4)造成事業に着手し、一般人を対象にしたロボットの実証実験が行えるようにしようとしている。同連携群と「目指す方向性は似ており、韓国に先を越されないよう各プラットフォームの利用を促していきたい」(大山氏)という。
■「平成21年度科学技術振興調整費評価結果報告書をダウンロード」
■注釈
*1:今回の評価は、「A」(所期の計画以上の取り組みが行われている)、「B」(所期の計画と同等の取り組みが行われている)、「C」(所期の計画以下の取り組みであるが、一部で当初計画と同等またはそれ以上の取り組みも見られる)、「D」(総じて所期の計画以下の取り組みである)の4段階で評価された。総合科学技術会議の科学技術関係予算概算要求に対する評価では、[S」(特に、重要な研究課題)、「A」(重要な研究課題)、「B」(効率的実施必要)、「C」(見直し必要)の4段階で評価がなされる。今回の評価は、必ずしもこれに対応しているわけではないが、おおむね、今回の「A」評価は総合科学技術会議の「S」評価に、「B」評価は「A」評価に対応していると言えよう。
*2:ATRが提案している「環境情報4層構造化モデル」では、次のような手順で人の位置および行動の推定を行う。まず「センサデータ層」で、カメラやLRF、RFIDタグといった各種センサから得られる情報を処理し、位置情報に変換。次に「セグメント層」にて、そこから出力される人の位置情報を統合・蓄積して、標準的な形式に変換する。「プリミティブ層」では、セグメント層のデータに基づいて、人の行動や様子などを表すプリミティブという記述形式で意味づけを行う。最後に、「サービス・アプリ層」では、セグメント層から出力される位置情報とプリミティブ層から出力される情報に基づいてロボットサービスを行う。例えば、「通路で立ち止まっている人に最寄りのロボットが声をかけて誘導する」というロボットサービスを記述しておけば、上述の意味づけがなされたとき、ロボットはそのサービスを実行する。
*3:信頼性にとどまらず、システムの一部が壊れても残された部分で稼働し続ける自立的かつ自己修復的な動作を意味する。
*4:「知能ロボット開発および普及促進法」に基づき建設される。2014年の完成を予定しており、2012年に一部施設をオープンする。ロボットアトラクションや体験館、展示場、競技場、研究開発(R&D)施設、教育施設、企業支援施設などが建設される。韓国・知識経済部では、建設による経済効果は2兆8000億ウォンに上り、また、1万8000人以上の雇用を創出できると見込んでいる。
■関連サイト
2009.06.01 ATR、環境構造情報化プラットフォームを人物・位置行動計測システムとして提供
http://robonable.typepad.jp/news/2009/06/20090601-atr-c8.html
2009.01.29 ATR、環境情報構造化における行動の予測と待ち受けによりサービス効率を向上
http://robonable.typepad.jp/news/2009/01/20090129-atr-a7.html
2009.01.29 ATR、イタリアのゴミ収集ロボを初公開、Robovieとの連携サービスを披露
http://robonable.typepad.jp/news/2009/01/20090129-atrrob.html
2008.12.26 ホンダとATR、ASIMOとRobovie-Ⅱによる連携サービスを実施。環境情報の獲得により周辺状況に対応
http://robonable.typepad.jp/news/2008/12/20081226-atrasi.html
ロボナブル2008年9月・10月特集
「顧客行動の“見える化”にRT(Robot Technology)の役割を埋め込め!」
PART2 顧客行動のモニタリングに役立つ技術・ソリューション
(1)マーケティング情報の取得にかなり役立つ「環境情報構造化」
http://www.robonable.jp/monthly/2008_09_10/p2.html#p001
連載講座
「業界標準技術を理解する その3 ネットワークロボット&環境情報構造化」
第1回 複数ロボットの連携を可能にするネットワークロボット
http://robonable.typepad.jp/trend/2007/11/post_828c.html
第2回 ロボットに知識や情報を提供する環境情報構造化
http://robonable.typepad.jp/trend/2007/11/post_d6bb.html
第3回 ネットワークロボットと環境情報構造化の連携
http://robonable.typepad.jp/trend/2007/11/post_0fdb.html
トレンドウォッチ
「韓国市場への期待は大きい。ただ、国内でのビジネスを第一と考えており複雑な心境でもある・・・」
- テムザック 高本陽一社長、韓国知識経済部とのMOUを語る -
http://robonable.typepad.jp/trendwatch/2008/05/mou-d49c.html
韓国、知能型ロボットの普及に本腰。ファンドや品質保証機関など設立へ
「知能型ロボット開発及び普及促進法」要約
http://robonable.typepad.jp/trendwatch/2008/04/post-c622.html
記者ルポ
ロボットとの触れ合い、購買への寄与を意識した見せ方が印象的
-韓国「ロボットワールド2008」レポート-
http://robonable.typepad.jp/report/2008/10/2008-6715.html