早稲田大学が文部科学省グローバルCOEプログラム「グローバルロボットアカデミア」(http://www.rt-gcoe.waseda.ac.jp/japanese/)の研究拠点として6月、西早稲田キャンパス近くのオフィスビルに「RTフロンティア」を開設した。ここではロボット研究室が最新の成果をオープンにし「いまできること」を明確に提示するほか、利用者個人に合わせて介護・福祉ロボットをフィッティングする。間近に迫った次世代ロボット実用化の“最終調整”の場となる。
オーダーメードで利用者の生活環境に対応:藤江研究室
RTフロンティアはビルの1階、9階、12階に入居する。1階にはベッドや車椅子が置かれた模擬生活空間や各種介護・福祉機器、ロボットが用意された。今後、地域の高齢者や要介護者に機器やロボットを実際に使ってもらってデータを収集し、実用化への細かい調整に生かす。
藤江正克教授は、「介護・福祉ロボットは使いにくくては意味がない。利用者ごとの生活環境に合わせた『オーダーメード』が実用化の必須条件」と力説する。ひと口に歩行支援といっても方法はさまざま。各種の支援機器やロボットを実際の生活環境に近い状態で使ってみないと、人によって便利すぎたり機能不足だったりする。
詳細なデータ収集のため、人の身体にかかる負荷を安全に計測する最新機器も揃えた。有効性の評価方法や安全性の検証など、実用化に向けて取り組むべきことはまだまだ多い。「効果的な方法を見つけ出し、標準化したい」(星雄陽研究助手)と意欲的だ。
データ収集には多くの利用者が必要で「気軽に入って試してもらえる施設」(松下詩穂研究助手)を目指す。8月に開催されるオープンキャンパスなどの機会を利用して地域社会との交流を深めたいという。また、海外との連携も積極化する。
駆動源に化学反応活用、組立・配線不要に:橋本研究室
9階、12階はロボット研究室が入居する場。成果を出し合って切磋琢磨するほか「みなで意見を出し合い、ロボットを学問として体系化させたい」(橋本周司教授)という壮大な狙いもある。
結集した研究室はみなユニークなテーマばかり。例えば、橋本教授の研究室はビーカーと溶液だけでできる「化学ロボット」の実現に取り組む。橋本研究室は情報処理を核としたロボットの基盤技術研究がおもなテーマ。ところが、5年ほど前「ロボットの組立が面倒に感じた。配線もトラブルの原因で非常に煩わしい」との理由で、それらが必要ないロボットの開発を思い立ったという。
化学はまったくの畑違いで「研究員には面倒をかけっぱなし」(同)だったが、溶液中を尺取り虫のように自律移動するゲルを開発。研究が前進しつつある。
化学ロボットは、駆動源が化学反応のため従来の駆動装置と違い電源が不要で、騒音がない。また、エネルギーの変換効率が100%に近く、配線設計や組立の手間が省けるといった特徴がある。その半面、有害物質の使用や制御技術などに課題が多いが、「新しいモノづくりの可能性を秘め、やりがいがある」(同)と意欲満々で挑んでいる。
表情としぐさで人とのやりとり円滑化:高西研究室
人と生活するロボットは、人間とスムーズにコミュニケーションを取ることが求められる。高西淳夫教授の研究室は、表情と仕草を表出するロボットを用いて、ロボットの感情表現がどれだけ人とのやり取りを円滑化できるかを研究している。
2足歩行ロボット「コビアン」はその最新成果。目や顎(あご)の動きを使った表情と身振り手ぶりなどの全身運動で驚いたり喜んだりする。例えば命令が理解できないときは、嫌がることで、よりスムーズに「意思が伝わっていない」ことを示す。
コビアンは2足歩行のため軽量化が必要で、以前の研究ロボットより顔の機構を減らして感情を“抑え”た。だが「全身表現を合わせれば6割の人に感情認識が伝わる」(遠藤信綱研究助手)という。今後も、コビアンが表出する表現を人間がどう受け止めるかなど、コミュニケーションの有効性を探る。
■関連サイト
2009.06.29 早大、化学反応で駆動する自律移動のゲル開発、溶液中で尺取り虫の動き
http://robonable.typepad.jp/news/2009/06/20090629-fce7.html
2009.05.22 早大、ロボットの研究拠点を設置、介護・福祉分野に向けた実用化を急ぐ
http://robonable.typepad.jp/news/2009/05/20090522-d517.html
2008.12.16 【WABOT-HOUSE】早稲田、中部地域連携センター構想を発表、研究資源の展開へ
http://robonable.typepad.jp/news/2008/12/20081216-wabot-.html