パナソニックは15日、ロボット事業の概要を紹介するプレス向けのセミナーを開催し、「医療福祉」「生活快適」「作業・労働支援」の3分野のうち、医療福祉分野におけるロボット事業を300億円規模に成長させることを明らかにした。7月に発表した「点滴注射薬払出ロボットシステム」を2010年1~3月に、CEATEC JAPAN2009で公開した「アシストカート」を同年春に、さらに現在、研究開発を進めている「監査確認」や「混注作業」支援ロボットシステムを同年10月以降に順次発売し、薬剤業務を中心に、業務カイゼンを含むソリューションの提供により目指す(写真1)。国内のほか北米や欧州、アジアなどで実施したマーケティングの結果、「(医療福祉分野に関しては)1事業として成立する」(牧野正志取締役)という感触を得ており、国内と国外で約150億円ずつの売り上げを目指す。2009年度は、注射薬払出ロボシステムの販売が第4四半期になることから、10億円程度の売り上げを見込む。
写真1 点滴注射薬払出ロボットシステムを皮切りに、各種ロボットシステムの導入により薬剤業務をまるごと支援することを目指す。
パナソニックは、医療福祉、生活快適、作業・労働支援の3分野に向けたロボット開発に取り組んでおり、2015年には全分野で1,000億円の事業規模にすることを表明している。ただし現時点では、生活支援を含むサービスロボットの安全規格がなく、ISO内で検討されている「パーソナルケア・ロボット」に関する安全規格の策定は2012年頃を予定に進行している。病院内のバックヤードでは、生活空間ほど安全性の確保が厳しく問われないことも踏まえ、医療福祉分野を当面の最重要分野に位置づけている。開発したシステムの一部は、事業展開を担うパナソニック四国エレクトロニクスに引き継いでいる。
すでに発表した注射薬払出ロボシステムは、松下記念病院の薬剤部で導入検証している(写真2)。今年2月2日~3月31日にかけて生産革新本部のNEXTセルツールを活用した業務カイゼン活動を展開し、人やモノ、情報の流れの整流化したうえで導入している。また、次に販売を予定するアシストカートは牽引支援のほか、車椅子と連結することでアシストカートにもなるもので、まずは払出をした薬剤カートの搬送用途に活用することを考えている(写真3)。電動アシスト自転車のモータ制御技術を活用しており、100kg以上にも上る薬剤カートを楽に運ぶことができる。 写真2 1時間で1,000本という高速な払出ができると同時に、薬品破損率はわずか1/50,000以下と、安定した稼動を実現しているため、病院内の注射薬払出業務の効率化につながる。また、輸液ラベルと注射箋の一括払出ができるうえ、A4カラープリンタの採用により劇薬や向精神薬などの表示をわかりやすくしているため、薬の取り違えミスを防止することができる。
写真3 院内アシストカートのコンセプト。牽引アシストに加え、車椅子と連結することによりアシストカートとしても利用することができる。
また、未発表ながら、監査確認および混注作業支援ロボシステムの開発にも取り組んでいる。前者は、ある患者の薬剤トレイを持ち上げると、その処方箋がある引き出しのみが開き、また薬剤を取り上げると、その名称や数量などを自動的に記録するシステムで、薬剤や処方箋の取り間違えなどの医療ミスを防止する。RFIDなどを活用してシステムを構築している。後者は注射器を使っての薬剤の吸引・注入や輸液パックでの混合作業を支援するシステム。抗ガン剤の中には放射性物質が含まれるものがあるなど危険を伴ううえ、注射器を使っての作業は煩雑であり、指先には相当な負荷がかかる。こうした作業の自動化を図ろうとしている。
そのほか、追従搬送が行えるポーターロボットの開発にも取り組んでおり、安全規格が策定された後には、払出をした薬剤をナースステーションに自律搬送する用途で利用することを検討している(写真4)。
写真4 2004年11月に人随伴搬送ロボット「Porter Robot」を開発。さらに、2008年にはリネン類巡回搬送ロボットを開発しており、院内搬送業務に応用しようとしている。後者のロボットは自律でフロア廊下を巡回し、リネン室と各客室を往復する。事前に作成した地図情報を有しており、天井のマーカーを確認しながら、それと照合して自己位置推定を行う。また、前後に1つずつ大きなキャスターを付加しており、高さ2cm程度の段差を乗り越える。安全規格の策定後は、自律搬送を行うことを検討している。
医療福祉分野では、業務改善提案といったコンサルテーションを含めた活動の展開を予定しており、「中には、コンサルテーションのみの引き合いもある」(パナソニック四国エレクトロニクス 中矢一也常務取締役)という。
薬剤業務は、調剤作業に半分以上の作業時間を取られるばかりか、注射や点滴、与薬時のヒヤリ・ハットなどのリスクが高い。開発したロボットシステムの導入により、作業の高効率化およびリスクの低減が期待されるうえ「服薬指導や治験など保険点数がつく作業に時間を割けるようになり、病院に経営にも寄与する」(同)ことが見込まれる。経営に苦しむ病院が多い中、病院施設の拡張時に導入できる可能性が高い提案になっている。
なお、他の生活快適、作業・労働支援の分野は、売り上げ目標はまだ検討していない。「2012年以降の安全規格の策定を受け、市場調査の実施のほか価格の検討などに取り組む」(牧野取締役)という。
※同セミナーの詳細は、後日「トレンドウォッチ」で紹介します。
■関連サイト
2009.10.07パナソニックの大坪社長、パワーアシストロボットなどを紹介、また安全技術の開発で業界の先頭に立って取り組むことを表明
http://robonable.typepad.jp/news/2009/10/20091007-b388.html
2009.09.30 パナソニック、ロボティックベッド公開、ベッドから車椅子への変形・分離を披露【動画つき】
http://robonable.typepad.jp/news/2009/09/20090930-c5e8.html
20090918パナソニック、ベッドと車椅子に相互に変形する車椅子一体型のロボティックベッド発表
http://robonable.typepad.jp/news/2009/09/20090918-75ef.html
2009.08.07 【追記】生活支援ロボ実用化プロの提案内容を公開、パナソニック以外は既存システム
http://robonable.typepad.jp/news/2009/08/20090807-eba8.html
2009.07.17 パナソニック、注射薬払出ロボ公開、他に薬剤の処方や混合を行うロボも開発中
http://robonable.typepad.jp/news/2009/07/20090717-132b.html
2009.07.10 パナソニック、注射薬払出ロボットシステム開発、210種類の薬品の搭載が可能
http://robonable.typepad.jp/news/2009/07/20090710-210-79.html