日本自動車研究所(JARI)の藤川達夫氏は、9月22~24日開催の「第28回 日本ロボット学会学術講演会」で「生活支援ロボット実用化プロジェクト」(NEDO)で取り組む、安全性を検証するための各種試験方法の開発状況を報告。現在、開発が進められている「移動作業型(操縦が中心)」「移動作業型(自律が中心)」「搭乗型」「人間装着(密着)型」の4タイプの生活支援ロボットに対し、使用環境を再現しつつ試験方法および評価基準を開発していることを紹介した。一例として、倒立二輪タイプの移動ロボットやロボットスーツの試験に対応した試験装置の開発に触れた。
また、機能安全に関する試験方法については、「来年以降に具体化させる」(藤川氏)とのことで、対象システムに疑似危険信号を入力したり、「安全関連系が多重化されている場合は、片方の系を失陥させたりすることで正常性を確認する」(同)ことなどを検討するという。
同研究所では、産業技術総合研究所や労働安全衛生総合研究所、名古屋大学などとともに「生活支援ロボットの安全性検証手法の研究開発」に取り組んでいる。生活支援ロボットで想定されるリスクにおいて検証試験が必要と判断される項目を抽出し、参考になる評価基準が既存規格で定められていない項目や、規定されているが改良の必要がある項目について研究開発を進めている。大項目として、「機械的ハザード」「EMC・通信」「人間工学的ハザード」「機能安全・緊急停止」に関する安全性および信頼性に関する検証手法を開発している。
機械的ハザードを中心に、言及された手法のみを紹介すると、走行安定性については電動車椅子や無人搬送車などの既存規格を参考に検討されており、規定外となる倒立二輪タイプの搭乗型ロボットに対し「重心移動制御装置」を試作したことを紹介した(写真は試験対象となった産総研の倒立二輪タイプの移動ロボット「マイクロモビリティ」、産総研・松本治研究員のHPより引用)。併せて、傾斜走行や段差乗り越え、溝踏破などの走行性試験路を導入し、使用環境の再現も進めている。
障害物検知およびその対応に関する試験は、各種障害物の接近を再現する装置の製作ととともに、移動ロボットが搭載する外界センサの種類に対応した性能試験方法の策定にも取り組んでいる。一例として、高速カメラとモーションキャプチャー装置により試験対象のロボットの移動軌道と姿勢を計測する「三次元動作軌跡解析装置」を紹介した。人間の模型やロボットモックアップなどが接近した際に、試験対象ロボットが安全に作動したか否かを検証することで、外界センサの性能評価を行う。
衝突安全性に関しては、自動車用の衝突試験装置や人体模型をベースに、起こり得る事故形態を加味しつつロボット用の評価装置の開発を進めている。自動車の衝突基準ではHIC(Head Injury Criterion)値(*)が用いられるが、高速で衝突した場合の障害を想定したものであることから、これに代わる評価基準を設けるという。
また、人間工学的ハザードに関しては、人間装着(密着)型を想定した接触安全に関する性能試験を紹介。装着型ロボットの回転中心が一定であるのに対し、人間の関節は運動により回転中心が移動し、そのずれにより接触時の安全性が損なわれることを想定したもので、安全規範となる運動条件や筋力耐性を見出すとともに試験装置の開発に取り組む。
人間装着型に関しては、サイバーダインのロボットスーツ「HAL」を対象に開発が進められていることから、EMC・通信に関する試験として「疑似筋電信号発生装置」を開発。無人状態で運転しつつ放射イミュニティ試験(電子機器の妨害電波などに対する耐性評価試験)を実施することを予定している。
なお、これら各種試験を実施する「生活支援ロボット安全研究センター」は、年末には完成予定で、12月中旬には公開が予定されている。
共同で安全性検証手法の開発に取り組む名大の山田陽滋教授は、「生活支援ロボットに特化した斬新な試験装置を開発し、これにより海外が日本に安全性検証を依存するような関係性をつくり上げたい」としていたが今回、藤川氏が紹介した重心移動制御装置や接触安全評価装置などは、それを反映したシステムといえる。
■注釈
*:三菱重工業の「wakamaru(ワカマル)」は、日本自動車研究所にてダミー人形を用いて腕の衝突や、wakamaru本体の転倒を計測し、HIC値に変換して評価がなされている。
■関連サイト
2010.09.21 経産省、生活支援ロボ実用化プロの対象機種拡大、3年目の実施計画の見直しによる
http://robonable.typepad.jp/news/2010/09/21meti.html#tp
トレンドウォッチ
2011年秋には発行!パーソナルケアロボの国際安全規格ISO 13482の策定動向
―次世代ロボット分野の国際安全規格策定と関連技術の動向より
http://robonable.typepad.jp/trendwatch/2010/06/post-100602.html#tp
2010.07.08 産総研など、生活支援ロボ専門の認証審査官の育成へ、2015年までに5名を輩出
http://robonable.typepad.jp/news/2010/07/08aist.html#tp
2009.12.15 生活支援ロボ実用化プロ、事業仕分け対象の影響で暗雲、100%国費の基準が不明
http://robonable.typepad.jp/news/2009/12/15robo.html#tp
2009.10.17生活支援ロボ安全研究施設整備事業8,000万円減額、施設整備の執行停止の影響
http://robonable.typepad.jp/news/2009/10/20091017-8000-6.html
2009.06.29 【速報】生活支援ロボ実用化プロの委託先にトヨタやサイバーダインなど
http://robonable.typepad.jp/news/2009/06/20090629-a50c.html
2009.05.07 経産省、産総研に生活支援ロボの安全研究拠点を設置、7億円の予算を確保
http://robonable.typepad.jp/news/2009/05/20090507-7-fb76.html