アポロ11号で人類が初めて月に降りたって今年で41年。以来、日本の月周回衛星「かぐや」など数多くの探査機が打ち上げられたが、まだ月は謎に包まれている。その月を2015年にロボットで探査し、2020年に月の南極にロボットを使って無人探査基地をつくるという月探査戦略案が、政府の宇宙開発戦略本部の「月探査に関する懇談会」で示された。科学技術立国・ニッポンが技術を結集して月の起源と進化の解明に挑む戦略とは、どのような意義があるのか? 人類に何をもたらすのか?
月面探査のカギは軟着陸技術
「月を知ることは地球を知ること」
宇宙航空研究開発機構(JAXA)執行役の長谷川義幸さんは、月探査の意義をひと言でこう話す。
月は地球から約39万km離れ、人類が到達した唯一の地球外天体。しかしながら、いまだに謎が多く、月の表と裏では地表や深部なども異なる。重力は地球の1/6程度で、昼夜が14日の周期で繰り返す。表側は「海」と呼ばれる平地が多いのに対し、裏側はそれがほとんどない。月の自転周期と地球を回る公転周期は同期していて、地球から月の裏側は見えない。地球から月の表側へは通信は可能だが、裏側は不通だ。
アポロ計画で月に設置した地震計から微弱な地震があることもわかった。もともとあったとされる磁気もなくなり、なぜ消滅したのかも不明だ。
そんな月に日本が挑む背景には、技術や科学に対する宇宙開発の波及効果が高いことがある。が、技術的課題もある。月に軟着陸させる着陸機の開発をはじめ、自在に動けるロボット技術の開発、電力供給源となる再生型燃料電池や太陽電池の性能向上だ。
この中で最も技術難易度が高いのが、軟着陸させる技術。安全保障などの国益に絡む“門外不出”の戦略技術であり、この技術を保有するのは世界で米国とロシアだけ。
| 各国の宇宙技術の保有状況(月探査戦略案より) |
長谷川さんは「着陸機が着地に失敗すれば計画は一瞬にしてパーになってしまう」と、軟着陸技術が本格的な月探査実現への最大の関門とみる。現在、機材などが積み込まれた着陸機が30度ほど傾いても大丈夫な機体の設計を検討中という。
着陸機は月の重力に逆らいながらエンジンを噴射して月に着陸する場合、燃料が限られるため20~30分程度で着陸させる必要もある。アポロ計画の着陸精度は目的地に対して1km程度だったのが、今度の戦略案では100m程度の精度で降ろすことを目指している。
2020年に月の南極にロボットで探査基地を建設
着陸が無事できても月面を自在に動き回る高度なロボットの開発が必要になる。技術の進展具合でヒューマノイド型なども考えられ、高度なロボット技術を保有する日本の技術力を示す機会にもなる。
2015年に月に送り込むロボットを使って、地震計や観測機器を月面の適切な場所を選んで設置。2020年には月の南極に基地を建設する計画だ。南極を選んだのは日照時間が長く、南極から近い月の裏側には科学的に探査価値の高い大きな盆地があるからだ。基地建設では地盤の様子や地下に眠る資源の探査も狙う。
| 2020年時点での月南極における探査基地のイメージ。左下に月探査ロボットが描かれている(月探査戦略案より) |
月面では総走行距離が100kmを超えるロボットによる探査や、太陽光発電や再生型燃料電池なども使って、月の岩石採取や地震計による内部構造探査を1年以上かけて行う。そこで採取された岩などの試料は地球に持ち帰って調査する。
月の表面は鉄分を多く含む微粒子の砂(レゴリス)で覆われ、帯電しやすい。その砂を払いながら、ローバーなど探査車で調査する。探査には、かぐやで培った遠隔操作技術や、かぐやによる月面画像データなどあらゆる知見が生かされる。
有人宇宙活動の実現につながるか
観測で注目されるのは、宇宙で大量に注ぐ放射線の計測。人体に影響を及ぼす放射線の本格的な観測は、この月探査が世界で初めてとなる。アポロ計画では月の滞在が数日間だったため、放射線への影響は少なく、高度な放射線計測装置もなかった。2015年以降は現在、国際宇宙ステーション(ISS)で使っている放射線測定器を改良して、詳しく調べる。
2015年と2020年に投じる総資金額は約2,000億円。有人宇宙活動の根幹をなす往還システムのうち、カギとなる要素技術の開発にも約900億円をかけて取り組む。有人宇宙活動を実現した国は米ロ、中国の3カ国だけ。それでも、日本は昨年ISSに日本実験棟「きぼう」を完成し、無人物資補給機「HTV」のドッキングに成功した。
国の有人宇宙開発への明確なビジョンは示されていないものの、長谷川さんは「HTV技術や、きぼうの開発で築いた高度な技術を積み上げることで(有人飛行への)道が開ける」と意気込んでいる。
月のナゾ解明が次のミッション
政府の月探査戦略案はJAXAの月探査機「かぐや」の後継機で、2010年代半ばにも月に着陸船を降ろして探査車を送り込む「SELENE-2(セレーネ2)」の実現構想と連動する。2020年の無人基地建設も、次々世代機「SELENE-X(セレーネX)」を見据えた長期ビジョンとリンクするものだ。
JAXA宇宙科学研究所の橋本樹明教授は政府が月内にもまとめる月探査戦略について「アポロ計画で月の謎とは何なのかがわかった。その謎解きになる」と読む。
アポロ計画以来、最大規模の月探査を行った「かぐや」は2007年に打ち上げられ、約1年半で任務を終えた。月の表と裏の重力分布の違いを確認するなど多くの知見を得ており、月探査戦略ではその知見を生かし、月の謎を解き明かす狙いがある。戦略がうまくいけば、日本の有人宇宙飛行も現実味を増す。
■関連サイト
2010.05.26 月の南極にロボット探査基地を建設、政府の宇宙戦略本部、2020年に向け戦略案策定
http://robonable.typepad.jp/news/2010/05/26utu.html#tp
2010.04.28 東大阪宇宙開発協組、人型宇宙ロボットの開発に向け、技術・仕様で意見交換
http://robonable.typepad.jp/news/2010/04/28sohla.html
2010.04.19 米GMとNASA、9月にヒューマノイドをシャトルで打ち上げ、無重力状態で動作検証
http://robonable.typepad.jp/news/2010/04/19gm.html
2010.02.17 JAXA、掃除衛星の研究開発に着手、ロボットアームで宇宙ゴミを把持して大気圏へ
http://robonable.typepad.jp/news/2010/02/17jaxa.html



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