日本精工
〒141-8560
東京都品川区大崎1-6-3
http://www.jp.nsk.com/
長竹 和夫 Nagatake Kazuo
執行役員 メカトロ技術開発センター所長
1952年生まれ。1975年、電気通信大学 電気通信学部 機械工学科卒。77年、同大学院 電気通信学研究科修了。2003年、日本精工に入社し、総合研究開発センター メカトロ技術研究所所長に就任する。05年よりメカトロ技術開発センター 所長およびセンサ実装技術開発部長などを兼任し、06年からは執行役員に就任する。
遠藤 茂 Endou Shigeru
メカトロ技術開発センター 先端研究開発部 グループマネジャー
1967年生まれ。1988年、仙台電波工業高等専門学校 電子工学科卒。同年、日本精工に入社。トライボロジ研究所(現基盤技術研究所)に所属し、製品技術の開発に携わる。2003年、総合研究開発センター メカトロ技術研究所(現メカトロ技術開発センター)の発足とともに同研究所に移籍し、以後、モータの開発に従事する。
飛田 和輝 Tobita Kazuteru
メカトロ技術開発センター 先端研究開発部
1975年生まれ。2002年、電気通信大学大学院 電気通信学研究科 機械制御工学専攻 博士後期課程修了。同年より、同大学でポストドクター研究員として光磁気式ロータリエンコーダや移動ロボットの研究に携わる一方、精密工学会 産学協同研究協議会「ロータリエンコーダの角度標準とトレーサビリティ体系に関する共同研究会」の幹事を務める。2004年、日本精工に入社。ヒューマンアシストロボットの研究開発に着手し、現在に至る。
日本精工は4本の脚で自律的に階段を昇降できるロボット「NR002」を発表した。その最終目標は、ライフサインス分野において、人をアシストする(ロボット)システムの実現にある。
機械要素部品メーカーである同社が、なぜロボットという製品を開発するに至ったのか? また、どのような応用分野に向けて発展させていくのか? その詳細について、メカトロ技術開発センターの長竹和夫所長、同センター先端研究開発部の遠藤茂グループマネジャー、飛田和輝氏に聞いた。
車椅子や盲導犬に応用可能な自律移動ロボット
少子高齢化や労働人口の減少を背景に、ロボット技術(RT)を活用した人間生活のアシストの気運が高まってきています。
例えば、医療分野では手術支援に、福祉・介助分野では車椅子やパワーアシストに、警備分野では巡回や警備に、また、災害救助支援やセラピーへの応用などについて広く研究開発が行われ、すでに実用化されているものもあります。
当社はこれまで、機械要素部品として軸受やリニアガイド、ボールねじ、モータなどを開発・製造し、各種産業機械の発展に貢献してきました。今回は、非産業分野、特にライフサインス分野への適用を目指したヒューマンアシストロボットの開発を発表しました。
その目的は、RTにおける潜在的な課題をいち早く捉え、当社が持つ「トライボロジ」「材料」「解析」「メカトロ」の4つのコアテクノロジーを生かして、生活に密着したシステムの発展に寄与することです。
人をアシストするデバイスはおもに、パワーステアリングや車椅子、触覚増幅器など人間の運動や五感を支援する「増幅系デバイス」と、盲導犬に代表される「情報提供系デバイス」に分類されます。当社は後者のデバイスとして、車椅子や盲導犬(*1)、介助犬などの代用として応用できるヒューマンアシストロボットの実現を目指しています。
例えば、目の不自由な方は歩くことはできます。それなら、装着型のセンサや、リュックサックのようにナビゲーション機器を背負ってもらうようなデバイスでもよいのではという議論がありました。そういった方法も1つのアプローチだとは思います。
しかし、日本盲導犬協会の方にお話しを伺った際に、目の不自由な方は盲導犬が自分の前を歩いてくれるだけで、安心感をもたれるということを聞きました。また、盲導犬もハーネスを外して仕事が終われば、普通の犬として、家族のような感覚をもたれるそうです。それゆえに、盲導犬は目の不自由な方にとって最良のパートナーになるのです。
これと同様に、自律型の移動ロボットを開発することは、ユーザーに大きな安心感を与えることになり、心身ともにサポートできる存在になり得るのです。
ロボットのキーワードは人とともに行動すること
上述のような流れでヒューマンアシストロボットの開発を考えると、「人とともに行動する」ことがキーワードになります。
そのためには、まず平地はもちろん、段差がある場所でも自律走行できる駆動技術が求められます。また、カメラやセンサにより道路にある障害物を避けたり、階段を認識したりする外界認識技術も必要です。さらに、触覚や力覚、音声などによって人に情報を伝達するマンマシンインターフェースも求められます。
これまでの「盲導犬ロボット」と呼ばれるロボットの開発では、認識能力とコミュニケーション能力に重きを置いた開発がなされています。このタイプのロボットの多くは車輪駆動を用いており、整地でないと自由に移動することができません。かたや、不整地での移動を実現する方法として、駆動輪に伸縮や回転運動などができる機構を組み込んだロボットなどの研究がなされています。ただし、このようなタイプのロボットは走行性能に重点が置かれ、人とのインターフェースは遠隔操作によるものが多いです。
当社がヒューマンアシストロボットの開発を始めたのは2004年のことで、2005年に第1号機となる「NR001」を開発しました。今回発表したNR002では、人とともに行動する範囲のうち階段を自由に昇降できることを重視し、それを可能にしました。
当社では、すでにヒューマンアシストロボットを開発するためのロードマップを作成しています。この先、イタラクション分野と外界認識分野を強化、そして、当社が得意とする駆動制御技術分野をさらに強化することにより、ヒューマンアシストロボットの実現に取り組んでいきたいと考えています。
4脚車輪型ロボット「NR002」。情報提供というかたちで人をアシストする
平地は車輪走行で、階段は4脚で自律移動
今回、発表したNR002は4脚車輪型ロボットです。階段など大きな段差がある場所でも踏み越えて移動することができます。例えば、段差を乗り越える場合は、片脚を踏み出すことになりますが、このとき残りの3本の支持脚から構成される支持多角形(三角形)の中に重心が収まるように制御することで、転倒を防いでいます。
つまり、現在は静歩行を採用していることになりますが、将来的には、よりダイナミックな動きができるよう動歩行を採用することも考えています。
また、4本の脚の先端には車輪を搭載しており、平地では車輪走行により迅速に移動することもできます。脚の関節を細かく変えることで、重心が中心になるようにコントロールしており、コーナーリング時でも安定した走行を可能にしています。
もう少し詳しく説明しますと、NR002の操舵は、股関節ヨー軸(垂直軸)の回転と脚先車輪の回転速度差で実現しています。脚を広げた状態での操舵は、股関節に負荷がかかるだけでなく、重心が外れて転倒に至る可能性があります。そこで、股関節のヨー軸の延長線上に脚先の車輪が位置するような姿勢をとることで股関節への負荷を軽減し、かつ重心を中心に収めて安定した操舵を行っています。
このような姿勢は特異点となり、ロボット技術者は嫌うようですが、当社独自の工夫により解決しています。
階段昇降時に1本の脚が遊脚となる際、残りの3本の支持脚から構成される支持多角形(三角形)の中に重心が収まるようにコントロールしている。また、距離センサと画像センサの複合センサにより階段の段差を認識する。
階段認識技術には、画像センサと距離センサ(*2)を用いた複合センサを開発し、利用しています。これは、距離センサで検出した階段の特徴点(凹凸)を、画像センサで読み取った画像に投影し、その画像処理結果から階段の段差を認識するものです。これにより、階段の歩行時にはロボットと階段の向きを検出して、姿勢を修正しながら歩行することができます。
また、各脚に接地センサを搭載し接地を検出することにより、階段の踏み外し防止などに対応しています。
2010年には盲導犬ロボットのコンセプトモデルを提示
NR002では、階段の位置や姿勢をランドマークなどで環境側に設置することなく、自ら階段の段差を検出することにより、位置や姿勢を認識して自律的に階段昇降が行えるようになりました。盲導犬や介助犬、車椅子などの代用として応用発展ができる、1つのかたちを提示できたと思います。しかしながら、屋外でのヒューマンアシストや目の不自由な方のパートナーとなるまでには、より一層レベルアップしていくことが求められます。
今後は、①姿勢・運動制御、②自己位置認識、③3次元画像処理、④音声認識、判断、応答、⑤触力覚センサやデバイス、⑥センサネットワークと自律システムの開発を進めていく予定です。
当社はこれまで、おもに機械要素部品を開発・製造してきました。しかしながら、実際に世の中で稼動しているものはモータやセンサなど各種要素部品をインテグレートされたものです。同様に、これらをインテグレートする開発力を備え、事業に貢献していくことが、メカトロ技術開発センターのミッションとなっています。
ロボットはメカトロニクスの集大成であり、いろいろなシーンで当社の機械要素が利用できます。モーション&コントロール技術についてはすでに手がけていますが、新たに開発した認識技術を加味することで、より付加価値の高い製品開発に取り組むことを目指しています。ヒューマンアシストシステムとして開発したNR002は、その象徴でもあります。
また、その技術の応用展開を図ることも視野に入れています。
当社では、重要な顧客として自動車メーカーさんと取引しています。自動車は、ある意味人が介在したロボットシステムのようなものであり、また、自動車メーカーさんには、各種認識技術などにより自動運転を実現しようという流れがあります。そこに、NRシリーズの開発を通じて得た認識技術やモーション&コントロール技術を応用していくことが見込まれます。そうした技術を培っておくことにより、自動車メーカーさんから自動運転に関するニーズが出てきたとき、すぐに対応することができるはずです。
今回の開発で、ひとまず階段の昇降ができる4脚車輪型ロボットを実現することができました。今後は、1つの応用分野として、2010年をめどに室内で利用する盲導犬ロボットのコンセプトモデルを開発し、2020年くらいには屋外で利用できるものの実現に結び付けたいです。
(取材&テキスト作成 小林 秀雄))
(注釈)
*1:同社では、盲導犬の代用にもなり得るNR002を開発した背景には、今後の技術開発のプラットフォームになるポテンシャルが高い、各要素技術のレベルが高く、将来的に自動車分野への応用が見込まれること、そして、盲導犬ロボットが実用に至っていないことなどがある。
なお、盲導犬が持つ機能要件として、①ユーザーからの指示の理解、②ユーザーが歩行する環境の歩行が可能、③ユーザーへの障害物情報の提供、④障害物を避ける、と整理しているという。
*2:距離センサには、位相差計測方式の走査型レーザレンジセンサを利用している。距離測定部の光軸上にミラーを利用した走査軸を1軸有しており、走査角度に対応する距離が出力されるものである。これに、もう1つの走査軸を設けることにより、3次元距離センサとして使用している。
また、CPUには運動制御用と画像処理用の2つを搭載している。処理能力の関係上のほか、機能分離による開発効率および評価作業の効率化などの理由によるものである。ただし、相互監視などの高度な監視は行っていないという。

