前回は、「特別編」としてメカトラックス社の成功の要因を探った。そして、ヒューマノイドが持つ表現力をうまく切り出して、クレーンゲーム機の魅力アップにつながることを、また儲けにつながることをマーケット側に提示できたことにあると紹介した。今回は同様に、ロボットの特徴を切り出して、既存システムとうまく組み合わせた例を紹介する。
取り上げるのは「第8回」で紹介したエビアである。環境問題への対策の1つとして注目を集めている「屋上緑化」(屋上菜園)に知能化制御技術を組み合わせることで、それをより有効なシステムへと昇華させている。
実証実験で絶大な効果を得る
エビアは、各種Webアプリケーションやデータベースシステムの設計・開発に加え、ビルや工場の自動制御を手がける企業である。IT系と制御系の両方の技術を有しており、これらを生かして開発したのが、屋上緑化のための知能化潅水システム「SOILMASTER」である。2006年12月27日~2007年3月9日まで実施した「なにわ空中棚田プロジェクト(*1)」の成果物でもある。
開発したシステムは、屋上菜園に設置した土中湿度センサなどから得られる情報を管理して、電磁弁を開閉する制御エージェント機能と、その情報と気象予報とを組み合わせて灌水指令を送り出すセンター機能から構成される。
土中湿度センサから土中の湿度情報を得て、その湿度が設定値(*2)以下を示した場合は電磁弁を開放して潅水を行う。日本気象協会から気象予測情報が雨を予報している場合は、湿度が設定値以下であっても潅水を待機する指令を出す。
また、パソコンや携帯電話に屋上緑化の様子をリアルタイムに伝える機能や、異常を通知するメール機能も搭載している。
センサ情報と天気予報データを利用して、足りないときだけ水を補うという開発思想が伺える。
一般に屋上緑化では、定期的に一定量を放水する「タイマー潅水システム」が利用されている。
ところが、降水確率が100%のときでも放水するため、大量の水をムダに消費してしまう。しかも、土中の水量が多くなると、土が流出して配管を詰まらせてしまうばかりか、植物を根腐れさせてしまう問題がある。ゆえに、上述のようなシステムを構成したのである。
同システムの導入効果は、なにわ空中棚田プロジェクトにて、すでに実証されている。ここでは、知能化潅水によるエリアやタイマー潅水によるエリアなど複数のエリアを用意して、野菜の育成および潅水量の比較実験を実施している。その結果、知能化潅水のエリアでは、タイマー潅水の約40%の水量で野菜を育成でき、しかも、大きく収穫できたことが報告されている(*3)。

屋上緑化の施工例(なにわ空中棚田プロジェクトより。写真提供:エビア)
SOILMASTERは、2007年6月末にリリースしたものだが、その成果が大きく報道されたこともあり、8月時点で早くも2件の施工例が公表されている。うち1件は猛暑の8月に施工されたが、適切な水量コントロールにより野菜や低木類が枯れることなく、しっかりと成長したという。改めて、SOILMASTERの効果が実証されたと言えよう。
複数のルートで普及を図る
すでに屋上緑化は、菜園や野菜の収穫に加え、市民や従業員の憩いの場として価値が認められている。本格的な事業化までには、そう時間がかからないように思われる。
今後の導入に関して、エビアではいくつかのルートを考えている。
まず1つは、なにわ空中棚田プロジェクトでパートナーを組んだ、マサキ・エンヴェックを通じた導入である。同社は屋上緑化に適した軽量土「ルーフソイル」(*4)の開発で知られる企業である。東京都のルミネ新宿や北千住の駅ビル、大阪市の阪神百貨店など数多くの施工実績を持つ。そこにSOILMASTERを導入していこうというのである。
2007年の春には、北千住の駅ビルへの導入を企図したが、年度末での提案だったために成約には至らなかった。「次年度には導入できる可能性は高いのではないか」(エビア 常務取締役 福澤トール明さん)と期待を込めて話す。
次は、ビル設備管理オートメーションに「LONWORKS」を採用するビル管理企業に向けてである。LONWORKSとは米エシェロン社が開発した、各種設備の知的分散制御を行うオープンネットワーク技術である。ビル制御の分野では空調や電気、照明、防犯、防災などの設備制御で利用されている。わが国では、1998年頃のビル再開ラッシュ時に普及し始め、多くの導入事例が報告されている。
SOILMASTERの制御機能はLONWORKS対応の各種デバイスから構成されている(*5)。ゆえに、それを採用しているビルであれば、既存のLONWORKSネットワークに接続することで容易にSOILMASTERを設置することができる。
最後は、屋上緑化から外れるが、何らかの予測システムとの組み合わせによる導入である。
既述の通り、SOILMASTERは制御エージェント機能とセンター機能から構成されるシステムで、センター機能で収集した天気予測情報を組み合わせて制御を行う。交通予測など他の予測情報と組み合わせることにより新たなシステムに仕立て上げることも可能である。
「制御システムとデータ収集システムをプラットフォームとして、さまざまな活用法を提案したい」と、福澤さんは話す。ただし、効果的な用途を見出すには時間を要するため、当面はSOILMASTERの普及を目指していくという。
同社は、2007年の夏に再度、実証実験に取り組んでいる。なにわ空中棚田プロジェクトは冬に実施したために、空調室外機の動力低減効果を確認できなかったからである。実証実験では「期待以上の実験結果が得られた」(同)ようで、SOILMASTERの普及に自信を深めている。
さらに近況を紹介すれば、「設備緑化」への取り組みも始めつつある。設備緑化とは、エビアが独自に提唱している緑化技術で、空調機室外機や機械室など屋上設備の壁面を緑化することで、より一層の動力低減効果を狙うというものである。施工方法は、建築物の壁面や塀にフェンスなどの補助資材を設置して、つる性植物などで緑化する「壁面緑化」と類似している。
通常、大規模ビルや工場などでは、電力会社とデマンド契約を結んでいる。これは年間の最大電力需要時の30分当たりの電力値で決定されるもので、契約電力以下に抑えられなければ、次の契約更新時から超過kWでの契約となってしまう(*6)。
設備緑化により「理論上6~7%の電気使用量の低減が期待される」(同)とのことで、機械室周辺のみをカバーするかたちでのSOILMASTERの普及にも意欲を示している。
今回紹介した例では、一般的な知能化制御技術を屋上緑化と組み合わせることで、より大きな価値を生み出す可能性を示している。ロボットビジネスでは、複雑かつ高度なシステムを構築しがちだが、むしろ、こうした巧みな組み合わせを考えた方が、ビジネスベースにのせやすいと気付かされた。
また、その前提条件として、ロボットの特徴を切り出して価値創出につながることを示すかが、いかに大切であるかを認識させられた。
(注釈)
*1:屋上緑化による空調室外機の動力低減効果、および知能化潅水システムによる屋上菜園への効果を検証することを目的に実施した。「ルーフソイル」と呼ばれる屋上緑化に適した土の開発と、多くの施工実績で知られるマサキ・エンヴェックととともに取り組んだ。
*2:なにわ空中棚田プロジェクトにおいては50%に設定していた。
*3:同社常務取締役の福澤トール明さんは、「余計に水を与えなかったため、土中に空気が入って植物の根が呼吸できるようになり、よく育成したのではないか」と分析している。
*4:マサキ・エンヴェックが独自開発した軽量緑化基盤土。中国四川省の標高3000~4000mの高地から採掘される泥炭(ピート)をベースにしたもので、土の粒子が高次に集合した「団粒構造」と呼ばれる特殊な構造を持たせている。これにより、水はけの良さと水持ちの良さという相反する機能を両立しており、一般軽量土の50~70%という少ない土量で植物を育成することができる。
*5:オープンシステムであるため、センサ、制御ユニット、手元スイッチ、監視装置などの制御システムにつながる機器のマルチベンダー化が進んでいる。さまざまなメーカーの制御機器の中から利用者や設計者が機器を選択し、組み合わせることによって最適な制御システムを構築できる。
*6:例えば、年間500kWで契約していて8月15日の30分間の最大電力600kW(500kWに対して100kW超過)がデマンド計に記録されると、どんなに節電をしても9月から1年間は600kWの契約になり、基本料金が高額になる。これを防ぐため通常、大規模工場などではデマンド監視を行う機器を設置している。
■企業データ
㈱エビア
代表取締役 平野浩一
〒534-002 大阪市都島区都島本通3-27-7
TEL(06)6923-2999/FAX(06)6923-0099
URL http://www.aviar.co.jp/
■関連Webサイト
マサキ・エンヴェック
http://www.envec.co.jp/
■参考Webサイト
ロボットラボラトリー
http://www.robo-labo.jp/
次世代ロボットネットワーク『RooBO』
http://www.roobo.com/



