京都大学 工学部 物理工学科 メカトロニクス研究科卒。関西テクノアイデアコンテスト2001グランプリ、同2002グランプリ、キャンパスベンチャーグランプリOSAKAグランプリ受賞。2003年、ロボ・ガレージを創業し、京都大学VBLベンチャーインキュベーションに入居。ロボット技術開発、設計、デザイン、製作までを一貫して行うロボットクリエーターとして活躍する。2005年には、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選ばれる。オリジナルロボットに「magdan」「chroino」「neon」などがある。また、2006年には女性の美しいフォルムを実現した「FT」を発表している。
古くから、ロボットは、人と機械の垣根を越えたコミュニケーションができる存在となることが指摘されている。それを実現するうえで、ロボットデザインは重要な役割を担っており、親しみを持たせる外見や仕草など、トータルでのデザイン・コーディネイトが求められる。その可能性を指摘し、挑み続けるロボ・ガレージの高橋智隆さんに、そのポイントを語ってもらう。ここでは、ヒューマノイドを前提に話してもらっていることをご注意いただきたい。
また、高橋さんには「人とロボットとのより良い関係」というコーナーでも、自身の開発の歩み、ロボット観を語ってもらっているので、ぜひ参照いただきたい。
http://robonable.typepad.jp/column/3_/index.html
「ロボットは人の感情移入により、機械と人との垣根を越えてコミュニケーションが成り立つものだと思うのです。そこにロボットの存在意義があると考えています」
ロボ・ガレージの高橋智隆さんは、そう話す。
確かに、人はロボットに対して、あたかも生命や人格があるように錯覚する。ロボットを見て「可愛い」と言ってみたり、「頑張れ」と声を掛けたりする行為にみられるように、思いやりを持って接していることがある。
そして、これは人にとっても大きなメリットをもたらす。例えば、調子の悪い家電製品やパソコンを叩いたりするようなことがあると思うが、それは不快感を残すだけである。しかし、生命や人格があるように思うことができれば、そのような行為に及ぶとは考えにくい。このように心地よく接することができる機械が、ロボットなのであろう。
高橋さんの代表作「Chroino」に見られるように、高橋さんが製作するロボットは、その考えが外観から醸し出されている。Chroinoは身長わずか350mmだが、生き生きとしたものが感じられる。
まずは人と心地よい関係を築く
上述のような考えを持つ高橋さんは、特にロボット*1の導入段階においては、「人との心地よい関係を意識すべきでは」と強調する。
高橋さんは、「ロボットをたとえると、異文化の人がやってきたようなものなのでは」と話す。
つまり、普段われわれが当たり前に行っている掃除や皿洗いなどはまったくうまくできない。ところが、計算をさせるとものすごく早い、天気予報をピンポイントで当ててしまうなど、われわれのできないことが簡単にこなせてしまう、というイメージである。
ロボットの導入とは、そのような異文化人を家族の一員として迎え入れ、ともに生活するようなイメージになのだろう。したがって、「初めから何らかの機能をロボットに求めてしまうと、その要求が厳しくなり、人にとって心地良い関係ではなくなるのではないでしょうか。もう少し対等な立場でもよいのでは」と主張する。
こうした考えを踏まえ、個人的な意見と前置きしながらも、高橋さんは次のように説明する。
「現在、介護やレスキューへの応用を目指して、盛んに研究がなされています。それは非常に意義深い取り組みです。ただし、日常生活よりも困難な状況で用いられるので技術的ハードルが高いうえ、大きな広がりがあるとは考えづらいです。
将来、ヒューマノイドロボットが一家に一台普及する時代を迎えたときに、それらの機能は発展型あるいは応用型として用意されればいいように感じます。ですので、もう少し心地よい関係を築くことに注力した方がよいのではと思うのです」
ロボットデザインは重要機能の1つ
ただ、ここで高橋さんが言う「心地よさ」とは、積極的にそれを与えようというものではない。不快感を与えないようツボを押さえたデザインを行う、と言う方が適切だろう。
その注意すべき点として、まず「不気味の谷」を挙げる。ロボットを人に似せるようにデザインしていくと、人への類似度があるところまで高まったあたりから急にロボットへの親和感が失せていく現象がみられる。その地点のことを指して、そう表現されている。キャラクター化したロボットの多くは、親近感が失せていく前あたりで類似度を抑えた外観を持たせる配慮がなされている。
また、「機械らしさ」と「人らしさ」の混合比への配慮も指摘する。それは、ロボットの性能に合わせて設定していく必要があり、このバランスを誤るとおかしなことになる。例えば、自由度が低いロボットはブリキのロボットのような原始的な動きの方がよく、逆に、蝋人形用のような外観のロボットであれば、人の持つ動きを滑らかに再現できなければ、違和感を与えてしまうことになる。
「不細工な外観だったり動きがぎこちなかったりすると、不快感を与えてしまいます。人でも顔つきや外見、仕草から、神経質そうな感じやだらしなさそうな感じを受けることがありますが、ヒューマノイドは人を模している以上、そのような法則が当てはまります。それを考えておかないと、負のイメージを与えてしまいます。
そのように考えると、姿形・動きを含むロボットデザインは出力装置の1つと言え、重要な機能の1つとして考えるべきではないかと思うのです」
親しみやすさの実践としてのChroino
では、このような考えを踏まえ、高橋さんはロボットデザインにどのように取り組んでいるのであろうか。その実践としてChroinoのデザインに触れる。
Chroinoは、親しみやすい外観や動きを実現した小型ヒューマノイドロボットである。米TIME誌の「Coolest Inventions 2004」に選ばれたことで知られている。
そのデザインの特徴は、まず子供をイメージさせるようなものとしている点である。胴体部分は子供の体型に倣って、背中を反る方向に湾曲させている。この体型と、後述する歩行技術「SHIN-Walk」(シン・ウォーク)が組み合わされることにより、堂々とした姿勢を生み出している。
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| Chroino 子供をイメージさせるデザインになっている。また、歩行アルゴリズムにはSHIN-Walkを採用しており、支持脚の膝を曲げずに歩くことを可能にしている。全身24自由度(片足6自由度、腰2自由度、片腕4自由度、頭部2自由度)を持つ。 |
子供の体型に倣い、背中を反る方向に湾曲させている。堂々とした雰囲気を醸し出すことに成功している。 |
眼は大きくすることにより、人と同次元に存在するものとして認識させるようにしている。また、人と同様に白目、黒目、瞳孔から構成される多層構造の眼にすることで、奥行きを持たせている。人のような瞳があると、人はそこに意思があるかのように錯覚し、また、これによりそこに視線を合わせるようになる。こうした効果を意図している。
Chroinoの眼は人と同様、多層構造となっている。これにより奥行きが生まれている。また、大きくすることにより、人と同次元に存在するものとして認識させている。
また、前述のSHIN-Walkを採用しているのも大きな特徴である。SHIN-Walkとは、股関節と足首のロール軸をオフセットさせ、体重の左右の移動時に生じる地面と足裏との距離の変化を利用して膝を曲げずに歩行する技術である。
「静歩行時に、前方に踏み出した遊脚が地面に届かず、それを届かせるために支持脚の膝を曲げて腰を下げているのでは」という考えから生まれた。2足歩行ロボットによく見られる、膝が曲がったままの不自然な歩行と異なり、膝が「伸」びた「真」な「新」歩行という意味から、このように名付けられた。
「Chroinoのデザインには子供っぽさ、人間っぽさを持たせているので、動きの方も自然でないと違和感を与えてしまいます。2足歩行ロボットで見られがちな中腰歩行では、明らかにヘンです。SHIN-Walkを採用しているのは、そうした理由もあるからです*2」
「親しみやすさ、心地よさを醸し出すためには、不快感を与えないようにツボを抑えたデザインを心がけるべきです」と、話す高橋さん。不気味の谷や、機械らしさと人らしさの混合比への配慮を指摘する。
高橋さんは、Chroinoの動きについてさらに説明する。
「Chroinoは小型であり、また人ほどの自由度を持たないので、若干大げさに振る舞うようにしています。仕草が何を意図しているのかが伝わりませんから。
また、人は何か動作するとき、いろいろな関節が一度に動かしており、その際、ムダな動きが発生しています。手を振っているときに、その反動で首が触れているとか、逆の手がふらふらしているという具合に。そのようなムダな動きをいれる方が自然な動きであり、それを大げさに動作させることで、Chroinoの動きが成立しています」
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自分のクルマやバイクに愛着をもって名前つける人がいる。ただし、「可愛いから購入した」「親しみを感じるから購入した」という話は耳にしない。しかし、ロボットはそれが動機になり得る。冒頭で高橋さんが言うように、人と機械の垣根を越えたコミュニケーションが成り立つからであろう。
われわれは、すぐにロボットに何かをさせるといった議論を展開しがちである。このようなロボットの特殊性に気づかされると、心地よい存在として受け入れるためのデザイン、動きはどうあるべきかについても考えておかなければならないと感じさせられた。
(注釈)
*1:高橋さんは、ロボット産業が進化していくと、ヒューマノイドと目に見えない形のロボットに二分されると考えている。後者は家電やホームセキュリティなどを指している。
*2:SHIN-Walkは、Chroinoの開発と同時期に考案されており、Chroinoはその実証機としての役割も担っている
■関連Webサイト
ロボ・ガレージ
http://www.robo-garage.com/
(2006年取材)













