知能システム研究部門 タスク・インテリジェンス研究グループ グループ長
わが国発の国際標準として、秋には正式な標準仕様書として公開されるRTミドルウエアのコンポーネントモデル。効率的なロボットシステムの開発を可能にする基盤技術として期待が高く、これを契機に普及に向けた動きが加速すると思われる。
これまでOMG(Object Management Group)での標準化に尽力してきた産業技術総合研究所(産総研)知能システム研究部門の神徳さんに、現在、OMGで議論している内容と、今後の普及に向けた取り組みについて聞いた。
これまで約3年にわたり、国際標準の獲得に向けた活動を展開してきました。どんなに優れたシステムでも、ある研究機関が研究として開発したものを、みんなが安心して使ってくれるとは考えにくいです。安定感を得るためには、何らかの標準に即していなければなりません。
そこで、(社)日本ロボット工業会を中心にRTミドルウエアプロジェクトを遂行する中で、このコンセプトを示す叩き台となるソフトウエア開発を進めると同時に、OMGに加盟して、その標準化プロセスに従って国際標準化に取り組んできました。その成果が、2006年9月にOMGの技術会議にて採択された、RTミドルウエアをベースとしたロボット用コンポーネントモデルの国際標準仕様原案です。
この標準仕様案は、われわれ産総研と米Real-Time Innovations(RTI)のそれぞれの提案内容のうち、合意できる部分を取りまとめて統一標準仕様案として提出したものです。現在は、両者が統一仕様案に沿ってシステムの実装を進め、その実装作業を通じて、仕様案の問題点を修正する作業を行っています。本年秋頃には、正式な標準仕様文書として発行することを目指して取り組んでいます。
これまで、OMG内ではロボット用ソフトウエア開発の枠組みとして、おもにロボットの機能要素をコンポーネントモデルによりソフトウエア部品化する方法を検討してきました。次のフェーズとして、その枠組みの中身の議論を始めています。その1つとして、ローカライゼーション(位置測定)機能の標準化に着手しています。
これは、ロボットの位置や姿勢、場所などに関する情報の表現方法と、位置・姿勢情報を提供する機能モジュールのインターフェース関するものです。これらを統一しておかなければ、ソフトウエア開発を分業することができません。すでにGIS(Geographic Information Systems:地理情報システム)などが広く用いられているので、ロボットに利用するのに必要な精度情報などを満足するかどうかを確認しながら、できるだけ、そのまま活用できないかといったことを調査しています。
これまでの国際標準化に向けた活動は、そこそこ順調に進んだと思います。ところが、われわれの活動は、結果として韓国を大いに刺激することになりました。
韓国では、ロボットに関する国家プロジェクトの達成目標の1つとして、国際標準の獲得を目指しています。標準化推進のためにKIRSF(Korean Intelligent Robot Standardization Forum)という組織を新たに設立し、そのサポートを背景に、OMGの標準化活動に積極的に参加しています。人間生活を支援するサービスロボットの市場化を目指して、相互運用性を高める標準化を互いに協力して進めているのですが、少し韓国に押され気味なのが心配です。日本国内のロボット技術の国際標準化に対する意識の高まりと組織化を期待したいところです。
デュアルライセンスでの提供を検討
現在、RTミドルウエアが提供する開発ツールの最新版として「OpenRTM-aist-0.4.0」をリリースしています。5月末に発表しました。昨年11月にリリースする予定でしたが、統一標準仕様案に準拠させる作業に時間がかかり、この時期での発表になりました。2007年の秋には正式な標準仕様文書が公開される予定なので、それに合わせて同「1.0」のリリースを考えています。すでに文書化作業の最終段階のフェーズに入っているので、現在の「0.4.0」から大幅に仕様が変更されることはありません。ユーザープログラムを再コンパイルし直すくらいの手間で「1.0」に移行できる予定です。
開発ツールとして広く活用してもらうために、次のようなデュアルラインセスを考えています。1つは、開発ツールの改良部分のソースコードを公開するような非商用利用や、単に開発ツールとして活用するだけの利用に向けた、無償のLGPLのオープンソースライセンス。もう1つは、RTミドルウエア自体を改良してRTミドルウエアの商品化を目指すような商用利用のための有償なクローズドライセンスです。
RTミドルウエアを利用して開発されたRTコンポーネントに関しては、制限なく自由に商売してもらうことで、新たなロボット用ソフトウエア部品の市場を拓いてほしいと考えています。
RTコンポーネントの収集に注力
今回の標準化の叩き台となったOpenRTM-aist-0.2.0は、多くの研究機関で試用、検証してもらっています。これまでに150件程度配布しました。しかし、配布するばかりで、ロボットの機能要素であるRTコンポーネントを収集するという作業ができていませんでした。RTコンポーネントが揃って便利にならないとRTミドルウエアは普及しないので、今後は、その収集活動に力を入れたいです。
「RTミドルウエアコンテストの開催によりRTコンポーネントの収集を図りたい」と明かす神徳さん。第1回目の今年は、センサなどのハードウエア要素やGUIインターフェースなどのソフトウエア要素を、RTミドルウエアを使ってRTコンポーネント化することが課題となる。「互いに開発成果を公開して、技術の共有と蓄積につなげたい」という。
その一環として、「RTミドルウエアコンテスト」(http://www.is.aist.go.jp/rt/RTMcontest/rtmcontest.html)の開催によりRTコンポーネントを収集することを検討しています。企業の場合、どうしても知的財産の問題が絡み、RTコンポーネントとしてソースコード開示することは難しいです。初年度の試みとして、多くのサンプルコードを収集する目的もあるため、大学3年生、4年生レベルをターゲットに、皆さんの研究開発成果をRTコンポーネントとして開示してもらい、その内容を競ってもらうことを検討しています。12月に開催される計測自動制御学会 システムインテグレーション部門講演会の企画として実施することを考えています。ロボットビジネス推進協議会の協力を得て、広く参加者を募りたいです。
また、「次世代ロボット共通基盤開発プロジェクト」(NEDO、平成17年~19年度)において、画像認識用モジュール、音声認識用モジュール、運動制御用モジュールの開発が進められており、それぞれRTミドルウエアを使ってRTコンポーネント化し、各モジュールの有効性を検証することになっています。順調に進めば来年には終了するので、各成果をきっちり収集・公開して誰でも活用できるようにしたいです。
これまでは、RTミドルウエアのコンセプトの案内に終始してきました。しかし今は、RTコンポーネントの共有という、次のステップに移行しつつあると言えるでしょう。
(OMGでの標準化プロセス)
OMGとは、オブジェクト指向技術の標準化、普及を進めるため、1989年に設立された業界団体。世界中の約460の団体が会員になっており、これまでにCORBA(Common Object Request Broker Architecture)、UML(The Unified Modeling Language)などを標準化した実績を持つ。
OMGでは、加盟組織の中で標準化目指すソフトウエア技術に興味を持つメンバーが集まり、そのメンバー間での議論を通して共通認識を構築し、標準仕様をつくり上げていく。次のような流れで進められる。
①標準化すべき技術課題の抽出
②関連技術情報の提供を求める公募文書(RFI: Request for Information)の作成および発行。提供された情報に基づいて制定すべき標準化技術課題に優先順位をつけたロードマップを作成
③それぞれの課題に関して標準化作業に興味を持つメンバーの募集
④標準仕様提案を求める公募文書(RFP: Request for Proposal)の作成および発行
⑤仕様提案者を集め、共通認識をつくり上げて統一標準案をまとめる。技術審査を経て標準仕様案として採択
⑥文書化作業部会を設置し、仕様としての整合性を確認
⑦標準仕様文書をまとめ、正式なOMG標準仕様として承認プロセスを経て技術標準を制定
現在は、⑥の段階に当たり、システムの実装作業を通して仕様の問題点を修正している。
なお、OMGの標準仕様文書はホームページ上で公開され、誰でも無料で閲覧することがでる。また、公開された仕様に準拠したソフトウエアを自由に開発して販売することができる。
(参考文献)
1)神徳徹雄、水川真:「RTミドルウエア標準化活動への誘い OMGワシントン会議の報告」,RoboMec2007, 2007.
■RTミドルウエアコンテスト
http://www.is.aist.go.jp/rt/RTMcontest/rtmcontest.html
■参考Webサイト
OpenrRTMオフィシャルサイト
http://www.is.aist.go.jp/rt/OpenRTM-aist/html/
RTミドルウエアプロジェクト
http://www.is.aist.go.jp/rt/


