産業技術総合研究所 山田 陽滋
前回は、「サービスロボットの安全性等に関する国際標準化案作成調査」および「サービスロボット運用時の安全確保のためのガイドライン策定に関する調査研究」を取り上げ、その調査・研究内容を紹介しました。これまでの活動内容の概要を理解いただけたと思います。
今回は、前者で取り組まれている「パーソナルケア・ロボット」に関する安全規格の策定作業、規格化に向けた動きを紹介します。最近までの調査・研究内容を把握できる内容になっています。
パーソナルケア・ロボットに関する国際規格の動向
2002年に、ハンガリーから人間のリハビリテーションのためのロボティクス応用-安全として、産業用マニピュレータの枠組みの中で標準化活動の提案がなされた。しかし、「リハビリ・ロボットは、産業用ロボットのアプリケーションの範疇では考えにくい」との理由により、投票の結果、不採択となった。
その後、2005年に「移動サービスロボット」に関するAG(Advisory Group)が発足し、約2年にわたって、形式的に16のワーキンググループ(WG)を構成した。
「移動サービスロボット」にて標準化対象とすべき新たな作業項目を議論したうえで、「安全」が市場拡大を待つ業界にとって重要であり、かつ社会にとっても最も深刻であり、国際標準化が急務な策定対象であると結論づけられた。その結果、第1回で紹介したISO/TC184/SC2/PT2が発足した。
適用範囲としては、Robots in Personal Careを対象とし、「ヘルスケア・ロボットを中心に据える」と定められた。
これらのロボットの人間との共存形態は、断続的な接触(intermittent contact)から連続的な接触(continuous contact)、さらに可能であれば、侵襲的(invasive)な場合までカバーすることで議論が落ち着いた。
また、おもちゃ(toys)は安全に関する標準化の対象外であるとされ、アミューズメント・ロボットも適用外とされた。
なお用語をはじめ、より広いサービスロボットの性能指標などは標準化の対象となる可能性があるとして、この議論を継続する新たなアドバイザリグループが期間延長で存続することになった。PT2として活動が認められ、これまでに3回の国際ミーティングを行ってきた。
その概要を示すと、次のようにまとめられる。
①パーソナルケア・ロボットの範疇に、どのようなものを含むべきかというフレームを定めること
②参加国それぞれにおいて、どのようなパーソナルケア・ロボットがすでに実用化され、あるいは市場を形成しつつあるかという調査を行うこと
③規格を作成すべく、ドラフトの骨子を策定すること
ただし各国とも、まだパーソナルケア・ロボット市場を有していないようである。
そこで①、②については、各国におけるパーソナルケア・ロボットの発展事情を把握し、参加者として適切なメンバーを募る目的も含め、第1回のPTミーティングから議論している。
③については、ISO10218-1を手本とし、目次をどのようにするのかを議論している。①と関連付けながら、コンタクトレベルで人間の体内へ侵襲するような(invasiveな)レベルのロボットも対象とするかどうかについても議論をしている。
なお、「パーソナルケア・ロボットとは」については、C規格を策定するとのPT2のミッションに対する目的指向から、次の4タイプが具体的に想定されるロボットであると説明されている。
●Surgery and medical robots
●Mobile manipulator robots
●Physical assistance robots
●People carrier robots
参照されるロボット安全規格およびガイドライン
ここでは、パーソナルケア・ロボットの安全規格の位置づけを考え、さらに今後、その安全規格を策定するうえで参照に値する安全規格やガイドラインを紹介する。
次世代ロボットは、メーカーおよび直接のユーザー以外にも、さまざまな人間と共存する状況が想定される。このことから、社会としてこれを受け入れられるかどうかという視点で、リスクはもとよりテクノロジーそのもののアセスメントを、直接・間接に関わる者が積極的に評価するという新たな枠組みが必要である。このような論点を踏まえたものが、第1回で触れた「次世代ロボットの安全確保のためのガイドライン」である。
このようなガイドラインの制定は、PT2参加国の中ではわが国が先行している。これまでのロボットに関するガイドラインとして長く参照されてきた、産業用ロボットの安全に関する技術指針(5)ほど詳細な技術的検討を取り込んではいないが、今後、スパイラルアップ式に改訂されることになっている。
同ガイドラインでは、機械安全におけるリスクアセスメントおよびリスク低減のプロセスを踏むことを規定しているが、次のように、従来のロボットの設計と異なる特徴を備えている。
①次世代ロボットの関係主体をメーカーとユーザーに限定せず、例示として、管理者や販売者から、ロボットの種類に応じて、さらに、ユーザー以外の者として通行人や医療施設での患者などまでを取り上げている。そして、それぞれの立場でリスクアセスメントからリスク管理まで、社会の構成員として、次世代ロボットを受容するための取り組みを行うべきとの方針を明記している
②メーカーは、リスクアセスメントの段階から多重安全の考え方を取り入れ、その精度を高める目的で、ユーザーなどを含むことが望ましいと明記している
次に、改訂がなされた産業環境用ロボットの安全要求事項ISO10218-1に触れる(6)。
いまや産業用ロボットの安全規格も、人間が安全防護柵内でロボットと共存できるとする技術条件を規定するに至っている。これらは、パーソナルケア・ロボットの中でも、Mobile manipulator robotsの安全を考えるうえで役立つと考えられる。
その技術条件は、次の4項目である。
①ハンドガイド装置が準備される場合、エンドエフェクタに近接して配置されること
②人間の速度および位置が監視されること
③ツール先端で規定される動力あるいは力の制限によって本質安全設計が達成されていること
④制御機能として、③における動力や力の最大値が超えないように利用されること
さらに、人間が搭乗するタイプのPeople carrier robotsに近い乗り物としては、産業車両が考えられる。その安全規格(7)には、操作者が車両に搭乗して、これを操作する場合には、最大速度が16km/hを超えないように設計されなければならないと記載されている。
そのほか、追従歩行者による操作の場合の速度制限も規定されている。電動車椅子も極めて近い存在であるが、その安全要求事項を規定している国際規格は、いまのところ存在しない。
Physical assistance robotsにおいては、福祉分野のパワーアシストロボットが具体例としてイメージされる。わが国においても、また米国においても、すでに産業用のパワーアシスト機器は実用化が進んでおり、これに関する規格が米国に「知的アシスト装置」として存在する(8)。
具体的な対象はパワーアシスト機器であり、その操作方法を「ハンズオンコントロール・モード」「ハンズオンペイロード・モード」などに分類している。そのうえで、例えばハンズオンコントロール・モードでは2.0 m/s、1.0 Gを超えない速度および加速度で制御されることを要求している。
今後の検討内容、規格化に向けた予定
前節で紹介した関連規格例は、パーソナルケア・ロボットの安全規格を策定するうえで、大いに役立つだろう。しかしながら、他の環境での使用状況が想定される安全規格をそのままパーソナルケア・ロボット安全の議論に持ち込むと当然、不合理性や不十分性が生じることになる。
例えば、2005年に愛知万博にて、半年にわたってデモンストレーションがなされた「次世代ロボット実用化プロジェクト」(NEDO)の接客ロボットの多くは、Mobile manipulator robotsの実例である。
これに対して、先に紹介した産業用ロボットが人間と共存するための技術条件を当てはめた場合、接客ロボットに接近する人間の速度および位置を監視したうえで、運転条件としてマニピュレータの速度が250mm/sを超えないようにしなければならない。
自動車工場の大型マニピュレータが対象であれば、このような条件は“やむなし”と言えようが、例えば、愛知万博のロボットをイメージした場合には、動きが遅すぎて有用性が損なわれてしまう。
したがって、例えばマニピュレータの本質安全設計を強く説いたうえで、人間(の身体の一部)との距離がロボットシステムによって確実に検出できれば、その隔たりに応じてロボットに、適度に高速な運転を許すという発展的な考え方を導入することが可能だと考えている。
また、次世代ロボットの多くが人間との接触を前提としているにもかかわらず、力に関する踏み込んだ規定を試みているのは、ISO10218-1の適用除外条件および「知的アシスト装置」の力検出範囲条件に過ぎない。細分化された各ロボットに対し耐性規範として、どのような物理量を採用するのか、また、具体的な数値を国際規格の中に採り入れるべきかなど、規格策定と並行して問題を整理し、議論しなければならないと考えている。
最後に、今後の国際安全規格の策定スケジュールを紹介しておく(図2)。

図2 今後の国際安全規格の策定スケジュール(上は原文、下は日本語訳)
現在までに、PT2座長(英国代表:Gurvinder Virk氏)から提示されている予定では、2009年のSC2総会でDIS(国際規格のドラフト)を、さらに、2010年の同総会でFDIS(国際規格の最終ドラフト)を提案。そして、国際規格として2010年あるいは2011年には発行するとなっている。
なお、Surgery and medical robotsについては、各国の構成メンバーの中に、その分野に明るい者がほとんどいない。そのため、医療ロボットの安全の専門家が出席することを条件に、審議を始めることになっている。
■参考文献
(5)産業用ロボットの使用等の安全基準に関する技術上の指針, 技術上の指針公示第13号, 1983.
(6)ISO 10218: Robots for industrial environments - Safety requirements - Part 1:Robot, 2006.
(7)ISO/DIS 3691-1.2 Part 1:Industrial trucks-Safety requirements and verification-Part1:Self-propelled industrial trucks, other than driverless, variable-reach trucks and burden-carrier trucks, 2006.
(8)BSR/T15.1, Draft Standard for Trial Use for Intelligent Assist Device-Personnel Safety Requirements, 2002.







