富士経済 武林 周一郎
Takebayashi Syuichiro:大阪マーケティング本部 第一事業部
2005年、神戸大学大学院 自然科学研究科卒。同年、富士経済 大阪マーケティング本部に入社。入社以来、FA・エレクトロニクス関係の部門に所属し、セキュリティやメカトロニクス分野の調査を手がける。「2007年ワールドワイドFAロボット/RT関連市場の現状と将来展望」プロジェクトでは、業務・民生用ロボットの業界調査を担当した。
〒541-0051 大阪市中央区備後町3-4-1
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富士経済は昨年、「2007 ワールドワイドFAロボット/RT関連市場の現状と将来展望」(https://www.fuji-keizai.co.jp/market/07068.html)を発表し、その中で、2006年における国内の業務・民生用ロボットの市場規模を約20億円と算出。また、2007年の市場規模は約26億円と見込んだ。規模としてはまだ微々たるものだが、今後の成長には大きな期待が寄せられている。ここでは、同調査内容、今後の市場予想の解説に加え、成長が期待される応用分野に言及してもらう。
わが国が少子高齢化社会に向かう中、モノづくりや商業ビジネスにおいては良質な労働者の確保や業務の効率化が、一般家庭においては、豊かな生活や安全をいかに確保していくかが、それぞれ課題となっている。そして、その解決手段の1つとしてロボットの活用が考えられている。
モノづくりにおいては、産業用ロボットの導入が進んでいるが、業務・民生分野においては依然として事業化のハードルは高く、いまだに大きな市場には成り得ていない。
しかしながら、さまざまな企業や研究機関において、研究開発や実証試験など市場化に向けた取り組みが進められており、市場の注目度やポテンシャルは非常に高い。
その現状を把握し将来を展望する目的で、当社調査レポート「2007 ワールドワイドFAロボット/RT関連市場の現状と将来展望」の取りまとめを行った。
本調査では、市場が顕在化している、もしくは顕在化が見込まれる業務・民生用ロボットを以下の12種類に分類し、それぞれの市場について、当社専任調査員による対象企業へのヒアリングを実施してレポートを取りまとめた。調査期間は2007年5月~7月、調査項目は「市場概況」「市場規模推移」「メーカーシェア動向」「市場の課題と見通し」などである。
各カテゴリーの定義と概要
まず、本調査で分類した、各カテゴリーの定義および概要を説明する。
①多目的サービスロボット
店舗やビル、病院などの業務分野において、受付・案内や誘導、搬送など多目的のサービスを提供するロボット。特定業務に特化したロボットと異なり、多機能で用途も多様であるため、実証実験などを行いながら、その中からニーズのある機能や用途を模索している段階である。
②業務用清掃ロボット
屋内外の各種集客施設や大規模なテナントビルなど、特定の作業ルート・区域内で清掃作業を行う多機能環境対応タイプのロボット。搭載するセンサなどにより周辺環境における自身の位置を判断して清掃作業を行うなど自律移動化が進んでいる。実証実験段階から実用化の段階にまで達している。
③業務用セキュリティロボット
ビルや空港、工場、港湾などの屋内もしくは屋外において警備・巡回を行うロボット。警備員の完全な代替ではなく、警備員や監視カメラなどの機器と併用し補完し合うことで、警備密度の向上や警備員の負担の軽減、コスト削減などを目指している。セキュリティ用途だけでなく受付・案内ロボットとしても活用するなど、多目的な展開も見られる。
④レスキューロボット
地震や水害などの災害や、火災やテロ、事故など、人間では二次災害の恐れがある危険な場所での探索活動を代わりに行うロボット。ロボットそのものが人命を救助することは技術面でも安全面でもハードルが高いため、要救助者の発見や現場の状況把握など、レスキュー隊の活動をサポートすることが、現在の開発の方向性となっている。なお、このレスキューロボットの技術を応用した、住宅床下点検ロボットの実用化に向けた取り組みが進んでいる。
⑤ヒューマノイドロボット
人間と同じように2本の脚と2本の腕を持つヒューマノイドロボットのうち、人間とほぼ同等のサイズのロボットは、人と共存しての作業や、人の代替となる作業を行うことを目的に開発されている。技術面や安全面でのハードルは高いものの、実用化に向けた研究が進められている。
一方、卓上サイズの小型ヒューマノイドロボットは、企業や大学のロボット研究者、エンジニア向けに運動制御や人間とのコミュニケーションなど、ロボット研究のツールとして用いられている。
⑥パワーアシストスーツ
ボディスーツのように着用し、電動アクチュエータや人工筋肉などにより人の手足の動きを補助する装着型のロボット。一般的なヒューマノイド型ロボットと大きく異なるのは、ロボットそのものが自律的に動作をするのではなく、ロボットを装着した人間が行うさざまな動作を、ロボットがアシストするという点である。そのため、細かな動きや臨機応変に状況に応じた判断など、現在のヒューマノイド型ロボットでは技術的に困難な点も、人が行うのであれば容易に対応できることが実用化に向けた大きな利点となっている。
用途としては、介護福祉分野や労働分野における支援・補助が想定されている。
⑦セラピーロボット
高齢者や障害者などの介護福祉の現場に用いられ、ロボットとのコミュニケーションによる“癒し”や“認知症予防”などの効果が期待されるロボット。一般家庭だけでなく、高齢者福祉施設やデイサービスセンター、病院などでも導入されることが特徴となる。
⑧食事支援ロボット
先天的な障害や病気や怪我の後遺症などで手足が不自由な人が、自力で食事を摂ることを支援するためのロボット。ロボットが自動もしくは手動での操作によって食べ物を掴み、自動的に口元まで運ぶので、使用者はそれを口に含み、咀嚼、嚥下するといった動きが可能であれば使用することができる。
⑨車椅子ロボット
電動車椅子のように人の手で操作するのではなく、自律的に目的地まで移動する車椅子型のロボット。その走行原理には、カメラやセンサなどにより周辺環境をモニタリングしながら移動するタイプと、周辺環境に設置したICタグなどから情報を受け取りながら移動するタイプがある。
⑩コミュニケーションロボット
家庭内で人との生活を共にし、生活を支援するロボット。音声認識による対話などにより人とロボットがコミュニケーションをとる。エンターテイメントの提供や、家電の操作、生活情報の提供などを行う。
⑪ホームセキュリティロボット
監視カメラや各種センサを搭載したロボット。不審者や火災などの異常を検知すると所有者の携帯電話などに通報したり、遠隔操作によって外出先から部屋の状態を確認したりする。このようなセキュリティ・見守り機能のほか、ロボットを通して室内の人と会話するなどのコミュニケーション機能もある。
⑫ホビーロボット
卓上サイズの2足歩行ロボットで、ラジコンカーのように個人向けの趣味として購入する場合と、大学や企業などが、安価なロボット研究教材として購入する場合がある。多くのロボットが、ユーザーが部品レベルから組み上げるロボットキットとなっており、その組立過程を楽しむだけでなく、モータなどの部品や外装のカスタマイズや、オリジナルモーションの作成など、各個人オリジナルのロボットを製作することができる。その発表の場としてそれぞれのロボットを競い合う「ROBO-ONE」のようなイベントも行われている。
これら12種類のロボットを業務・民生用ロボットと定義し、それぞれの市場規模を合計することで、2006年~2010年の業務・民生用ロボットの市場規模推移を算出した。
図1
業務・民生用ロボット市場規模の推移(2005年~2010年)
セラピーロボットやホビーロボット、ヒューマノイドロボット(研究用)、ホームセキュリティロボット、コミュニケーションロボットなどの市場では、すでにいくつかのロボットが上市され、それぞれ数億円程度の市場を形成している。
そのほか、多目的サービスロボットや業務用清掃ロボット、業務用セキュリティロボットなども、導入実績を上げ始めており、2006年の市場規模は約20億円となった。
今後については、間もなく市場が立ち上がると見られているパワーアシストスーツやレスキューロボット(床下点検に応用)のような、新たなカテゴリーのロボットの登場や、既存のカテゴリーのロボットにおける新規メーカーの参入や新製品の投入などにより市場拡大の兆しを見せ始めている。2010年には約3.2倍の約65億円に達すると予測した。
2006年現在で市場が立ち上がっており、その動向が注目されるいくつかのロボットの市場規模と、対2006年比の2010年における伸長率を以下に示す。
表1
注目されるロボットの市場規模と、対2006年比2010年の伸長率
各ロボットの普及時期予測
また、本調査では業務・民生用ロボットの普及段階を4段階に分けて、以下の通り、各ロボットの普及時期を予測した。

図2 各ロボットの普及時期予測
「R&D」は研究開発や実証実験を進めている段階。「市場立上」は実際に製品化が始まり市場が立ち上がった段階。「市場形成」は参入企業も増加するなど普及し始めた段階。そして、「市場本格化」は、参入企業間の競争も激しくなり、市場として本格化した段階である。
業務分野のロボットでは、すでに実績が出始めている業務用清掃ロボットや業務用セキュリティロボット、市場が立ち上がり始めているレスキューロボット(床下点検に応用)といった、特定作業を行うロボットの市場が先行するかたちとなっている。2015年頃までに本格化すると見られる。
多目的サービスロボットはすでに製品化されているが、まだその機能や用途を模索している段階である。
レスキューロボット(レスキュー用途)も、その有用性の検討や信頼性の向上などを図っている段階であるため、市場の本格化は2015年以降になると見られる。
セラピーロボットや食事支援ロボットといった介護福祉向けの支援ロボットは市場が形成され始めている。一方、車椅子ロボットのように、自律的に動作するロボットは安全面や技術面、インフラ整備などの課題解決が必要となっており、市場の立上げにはかなりの時間がかかると見られている。
同様に、ヒューマノイドロボットのように、介護にとどまらず労働や家事など人と共存しての作業や、人の代替となる作業を行う高い汎用性を持った自律型のロボットも、技術的な革新や社会的枠組みの整備などが必要となり、実用化のメドはまだ立っていない。
これに対し、パワーアシストスーツのように、装着した人間が行うさまざまな動作をアシストするロボットは、人が判断などを行うため2008年にも実用化が見込まれている。現在、最も注目されているロボットになっている。当社では2010年には30億円の市場にまで拡大すると予測している。
コミュニケーションロボットやホームセキュリティロボットなどの民生分野のロボットは、市場は形成されているものの、現状ではロボットである必要性を明確にできておらず、ユーザー個々の意識に依るところとなっている。市場の本格化は2015年以降になるだろう。ホビーロボットは文字通り趣味のロボットとして目的が顕在化しており、市場が本格化しつつある。
ビジネス拡大に向けた課題と対策
このように、ようやくその形が見え始めた段階である業務・民生用ロボット市場においてビジネスを拡大させるためには、まず多数見受けられる課題を1つひとつ解決することが求められる。本調査の中で抽出されたおもな課題とその対策を挙げる。
●コスト面
ハードウエアやソフトウエアのプラットフォーム化などによるメーカーの開発負担の軽減や、レンタル販売や補助金によるユーザーの初期投資負担の軽減といった取り組みを進めることが必要となる。
●技術面
個々の要素技術の向上はもちろん、技術力のある他メーカーや、大学などの研究機関との連携した取り組みも必要となるだろう。
●販売・サポート面
自社での展開のほか、販売/サポート網の充実している他社とのアライアンスも想定される。
●安全面
基本的に人と共存するロボットであるため、対人、対物の安全性強化が必要となるが、その動作の信頼性確保に加え、法整備やロボット保険などの社会的な枠組みづくりが求められる。
そのほか、危険を伴う作業や、単純作業などロボットが得意とする分野での新たなアプリケーションの開発が求められている。また、ロボット技術を家電などの従来製品へ応用していくことも1つの方向性となる。
ビルや商業施設などで採用される業務分野のロボットでは、特にユーザーがロボットを採用することで、コスト面や業務面、集客面などビジネスにおいて、どのようなメリットがあるかが重視される。現状では、ユーザーに合わせたつくり込みや、企画段階などから共同開発することが必要となる。
一般家庭で採用される民生分野のロボットでは、特に不特定多数の消費者向けの販売・サポート体制や、汎用的な製品づくりが要求される。また、現在の民生用ロボットは各個人の趣味の一種や、生活を豊かにするためのものといった位置づけであり、生活に必須のものと感じるユーザーは少ない。個々の多様なニーズを掴んだ市場の創出が必要となる。
当社では毎年、業務・民生用ロボットだけでなく、産業用ロボット市場についても、その市場動向を取りまとめている。産業用ロボット市場は、世界的な需要増による下支えはあるものの、上位メーカーの技術力・サポート力が拮抗していることを背景に、価格競争が進んでいる。そのため、産業用ロボットメーカーでは、積極的な海外展開や、セル工程向けシステム、工作機械間の搬送工程での採用・提案などにより、FA領域での採用シーンの拡大を図る動きが活発化している。
また、もう1つの動きとして、産業用ロボットで培ったロボット技術を業務・民生領域へ応用する取り組みがある。
現状では、産業用ロボット市場と業務・民生用ロボット市場にアプローチする企業の顔ぶれは大きく異なっているが、ケーブルやエンコーダ、モータなど、産業用ロボットメーカーに部材を供給している部材メーカーでは、業務・民生ロボット市場のポテンシャルや将来性に注目している。すでに実績づくりのために、構成部材の提供などを行っている企業もある。
産業用ロボットで培った技術をモジュール化して業務・民生用ロボットメーカーに販売するといった動きも見え始めており、産業用ロボットメーカーとの連携も業務・民生ロボットビジネス拡大に向けた方向性の1つになるだろう。

