触覚インターフェースは技能伝承に使えるのか?- 名工大、触覚技術のメカニズム解明へ -

 名古屋工業大学工学研究科の藤本英雄教授らの研究グループ(http://drei.mech.nitech.ac.jp/~fujimoto/)は、人間が物に触れたときの力のかかり具合や手触りの感知に関する触覚技術の開発を進めている。これを生かすことにより、仮想や遠隔の対象物に、実際に触れたような感覚を創出することができる。
 期待される応用分野は広く、触覚技術研究においてトップランナーである同グループでは、モノづくりや医療分野の技能訓練用システムなどへの用途開発に取り組んでいる。

ロボットによる遠隔での陶磁器の製作

 藤本教授らは、もともと研究テーマの1つにコンピュータの仮想世界を模擬体験するバーチャルリアリティを掲げていた。「より臨場感を持って体験するには視覚以外の感覚が必要」(同)との考えから、90年代前半から触覚技術の研究に乗り出した。

 触覚技術は、大きくは力のかかり具合を指す「力覚」と、「ざらざら」「ぬるぬる」などといった手触りを指す「触覚」の2つに分類される。力覚の研究は進歩しているが、触覚についてはメカニズム自体に不明な点が多く発展途上にある。
 藤本教授らはこれらのメカニズム解明を図るとともに、それらを活用して仮想や遠隔での作業を模擬体験できるシステムの開発に取り組んでいる。

 システム開発のポイントは大きく2つある。1つは、力や手触りを感知、数値化するセンサ側の開発。もう1つは、それを人間の手元で再現する装置類の開発である。藤本教授らは、すでに技能の体験や訓練に活用できるシステムの開発で成果を上げている。
 その1つが、陶芸への応用である。指で掴むタイプの装置を操作し、コンピュータ上でろくろによる陶磁器製作を模擬体験できるシステムを開発した。モータの制御などにより指先には実際にろくろ作業しているような感覚が得られる。これにコンピュータ上の仮想世界ではなく、センサを搭載したロボットを活用すれば、遠隔での陶磁器製作も可能になるという。

Photo_18  陶芸体験システムにより、ろくろを模擬体験できる。

 また、医療分野では名古屋大学医学部付属病院と共同で、腹腔(ふくくう)鏡手術の際、腹壁に穴を開ける「トロッカー」と呼ばれる器具の挿入作業の訓練システムも開発している。

 システムは、トロッカーと人間の腹部を模した装置などから構成される。トロッカーをさまざまな硬さの物体に挿入して採取したデータをコンピュータに入力してあり、これにより実際の腹壁への挿入に似た感触を得られる。
 現在、同病院で手術時のトロッカーにセンサを取り付けて生データを採取しており、より本物に近い感触を得られるシステムを目指している。

Photo_19 腹壁に似た感覚が得られるトロッカー挿入訓練システム。

軍手に着目してブレークスルー

 藤本教授らは、これら力覚体験システムと併行して、触覚を取り入れた研究成果も出している。その1つである、対象物の表面に存在する微小な凹凸を感知できるシート状の製品「触覚コンタクトレンズ」は、自動車業界に衝撃を与えた。
 製品を指で押さえながら動かすと、その下にある数十μmレベルの凹凸を感知できるもので、通常は、このレベルの凹凸を指先で感知するのは不可能とされる。

Photo_20 数十μmレベルの凹凸を感知する触覚コンタクトレンズ。

 このような感知を業務としているのが、自動車工場でボディの凹凸を最終チェックする熟練工である。
 研究では熟練工が素手ではなく軍手を装着してチェックしていることに着目。素手に比べて介在物がある方が、感知力が上がることがわかったうえ、軍手のメリアス編みと呼ばれる編み方が感知力を向上させていることも明らかにした。
 これらの原理を応用してできたのが、上述の触覚コンタクトレンズである。樹脂製で、厚さ0.3mmのシートにφ1mm、高さ3.2mmの多数のピンを等間隔に並べたもので、これを使えば、素人でも微小な凹凸を感知することができる。

滑り具合の情報を数値化することで感覚を再現

 このほか、ロボットを介して遠隔の対象物の表面の滑りやすさを感知するシステムも開発した。ロボット先端に特殊センサを取り付け、それが対象物に触れると滑り具合の情報を数値化し、人間が掴む装置に超音波をかけて、それを再現する。今後、これまでに開発してきたシステムを産業界や医学界で実用化するために改良を加えていく。
 わが国の産業界で熟練技能の伝承が課題となる中、効率よく技能習得ができるシステムとして期待されている。

 現在、触覚感知については指先にあるマイスナー小体など4つの受容器が関与していることはわかっている。しかし、それが脳に伝わる詳細なメカニズムは、いまだ明らかになっていない。
 藤本教授らは脳科学分野と連携して、この触覚メカニズムの解明にも乗り出している。これが明らかになれば、より本物に近い感覚を得られる触覚の模擬体験システムの開発につながることが期待される。

クルマとロボットの技術交流は進むのか? - 自動車技術協会と日本ロボット学会、協調を模索 -

自動車およびロボットの先端技術研究で、互いの技術を利用しようとする動きが始まっている。学会同士で講演会やイベントを共催し、技術交流の促進を図ろうとしている。
現在、自動車メーカー側では「各技術の相互利用の本格化はない」という意見が主流を占める。確かに、別々の技術進化を遂げてきたが、共通する要素技術が多数あるうえ研究思想は近い。今後、研究レベルで融合する可能性は高い。

自動車とロボットの協力関係を構築

 来週5月21日(水)から「人とくるまのテクノロジー展」(http://www.jsae.or.jp/expo/)と併催される「2008春季大会 学術講演会」では、初めてロボット専門研究員が講演する。
 21日(水)開催の「人と共存するクルマとロボット」にて、トヨタ自動車の山岡正明氏や本田技術研究所の及川清志氏、立命館大学の手嶋教之氏らが講演を行う。先端技術研究者の間で、ロボットと自動車が共同歩調をとる節目になるかもしれない。

 同展を主催し、自動車関連の研究者が参加する自動車技術協会(http://www.jsae.or.jp/index.php)と、ロボット研究者で構成する日本ロボット学会(http://www.rsj.or.jp/)は、2007年に覚書(MOU)を締結した。おもな目的は、ロボット工学と自動車技術に共通する学術・科学技術での交流と協力関係の構築にある。
 ロボット研究者の中には「人の移動を助ける目的のロボットの進化系は、限りなく自動車に近づく」という見方をする人が多く、両学会の動きが双方の技術交流および進化につながると期待を寄せる。

共同歩調で期待されるシナジー効果

 一方で、こうした動きの背景には「両学会の焦りがあるのでは?」と、指摘する関係者もいる。各企業のロボットビジネスはいまだ事業化には至らず、いまもなお研究所内で研究開発が続けられているからである。

 「機械系の技術だけなら2足歩行はほぼ完成系」(本田技術研究所 広瀬真人第2研究室室長)という段階にきたものの、高度なリアルタイム処理に耐えられる高速デバイスの開発や自律行動のための知能化技術、安全技術などでは踊り場を迎えている。こうした技術は、この先ロボットが人と共存するステージに立つうえで不可欠である。
 また、自動車の技術研究でも、エレクトロニクスや通信、ソフトウエアなど、いわゆる「組込みシステム開発」技術がますます重要になってきており、これらを包含するロボット技術への関心が高い。

 そのような中、次世代の自動車安全や利便性向上につながるITS研究では、「2010年の本格事業化といった目標はあっても、そこから先が見えてこない」(業界関係者)状況に陥っている。
 空間の知能化をはじめ、「ロボット研究者が描く”未来図”を知ることは、自動車社会の未来を探るのに役立つ可能性があるのでは」と、捉えられつつある。

自動車とロボットの一体化には課題も 

 それぞれ進化してきた自動車とロボットであるが、センサやカメラ、アクチュエータや、これらの制御技術など、利用する要素技術は重複している。また、それぞれの研究が目指すところも似ている。

 2007年の「東京モーターショー」に登場した日産自動車のコンセプトカー「PIVO2」は、人と対話しながら運転をサポートする、まさにロボットそのものと言えるものだった。関係するNECではPaPeRoの開発で培ってきた各種インターフェース技術を、カーナビや携帯電話機、PDAなどに実装することにより、これらの機器で登場するエージェントの知能化を検討しているが、それをわかりやすく示したものである。
 両者の交流活性化への下地は整っているように見える。

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日産「PIVO2」のインパネ部分。人と対話して運転をサポートする(写真は日産「PIVO2」特設サイトより引用)。 NECが構想する、リアルタイプのPaPeRoとCGタイプのPaPeRoによるシームレスな対話システムの概要(モノづくり推進会議「ロボット研究会」講演資料、NEC藤田善弘氏より引用)。 NECが提示した各種インターフェースのロボット化の例(モノづくり推進会議「ロボット研究会」、NEC藤田善弘氏の講演資料より引用)

 ところが、自動車開発とロボット開発の両方を手がけるトヨタ自動車とホンダは、「これらの研究の一体化はない」と口を揃える。
 ホンダでは、ASIMOで培った姿勢制御技術やセンシング技術を、自動車の運転制御技術に利用する取り組みを実践しているが、「互いの交流は深まるものの、ユーザーニーズの次元が異なる」と、広瀬第2研究室室長は、その理由を示す。

 先端技術研究者の間で、こうした温度差はまだまだ存在するかもしれない。しかしながら、互いの技術交流は始まったばかりであり、やがてはシナジー効果が生まれ、一体化が加速するターニングポイントは遠くないかもしれない。

米ペンシルベニア州にみる、VB創出による地域活性 -ロボットやインターフェース技術などハイテク産業地帯へと変貌-

 4月下旬、大詰めを迎えた米大統領選の民主党候補者選びで予備選に沸いた米ペンシルベニア州。かつての「鉄の都」は工場の海外移転などで主要な鉄鋼産業が衰退し、サブプライム危機による景気の減速が追い打ちをかける。
 製造業の空洞化が危惧される中、同州に位置する全米有数の大学は、ベンチャー企業の創業に意欲的だ。重工業からハイテク、サービス産業へと変貌を遂げる同州の取り組みは、わが国に新たな指針を与えてくれる。

Photo ■ペンシルベニア州
 ペンシルベニア州は、全米第5の大都市フィラデルフィア、米製造業の巨大拠点として成長したピッツバーグ市を有する。1950年代、同市は鉄鋼業のUSスチールやアルミ業のアルコア、現在は東芝傘下のウエスチングハウスなど大企業の研究拠点を多く構え、米国工業化時代の象徴だった。
 鉄鋼業が斜陽産業となった現在、人口減少も重なり、雇用の受け皿は従来型の製造業から、病院や大学、バイオ・製薬関連企業に徐々へと移行してきた。大学や研究所の集積地でもあることから、近年では、大学発ベンチャーが地元経済を活性化する役割として期待されている。

ソフトウエア工学・ロボット工学に強いカーネギーメロン大学

  カーネギーメロン大学(http://www.cmu.edu/index.shtml)は、ソフトウエア工学やロボット工学に強い全米有数の名門工科大学。一代で鉄鋼財閥を築いたアンドリュー・カーネギーが1900年に設立。いまや世界をリードするIT研究拠点の1つになっている。
 大学からスピンオフする企業を支援する体制が整っており、大学で生まれた発明の数に対し、起業の成功例が多い。1990年半ばにインターネットの検索事業を立ち上げたライコスを筆頭に、多くの大学発ベンチャーを育む土壌が根づいている。

 GPSを搭載した無人芝刈り機を開発、事業化したセンシブル・マシンズ(http://www.sensiblemachines.com/)は2009年に、その実用化を目指す期待のベンチャーである。センサで軌道修正をしながら高速自動運転で芝を刈り入れる。
 創業者でチーフ研究員のサンジブ・シン博士は「米国内のほか、中国などアジアにも売り込む」と意欲を示す。

 磁石の効果を利用した触覚インターフェースを研究するラルフ・ホリス教授の研究室では、日本人留学生が活躍している。「年内に商用化する」(碓井渓研究員)というシステムは、例えば、手術のシミュレーションを映像を見ながらロボットで操作することを可能としており、遠隔医療などに道を開きそうだ。

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センサで軌道修正をしながら高速自動運転で刈り入れ作業を行う無人芝刈り機。 触覚インターフェースの原理を説明するホリス教授。

 また、同大学で特徴的なのが産学連携のイノベーションセンターの設置である。学内に設けたインテルやアップル、グーグルなど企業の研究所には、卒業生でもある現代アートの巨匠、アンディ・ウォーホルの作品を思わせるポップで自由な空間が広がる。インテルはここで、大学と共同で家事支援ロボットなどの開発を進めている。

Photo_5 インテルと共同開発したマグカップを持ち上げる家事ロボット。

 同大学は日本との関わりも深いこともで知られる。アジアにIT研究網を広げるため、2005年には神戸市にカーネギーメロン大学大学院日本校(http://www.cmuj.jp/)を設立。2008年3月には、米カーネギーメロン大のエンターテインメントテクノロジーセンターがシャープと共同研究を始めると発表した。

 伝統あるロボティクス研究所の所長は2001年までの10年間、ロボット工学の世界的権威である金出武雄同大教授が務めた。ホンダの「ASIMO」やソニーの「AIBO」、手塚治虫の「鉄腕アトム」などは同大の「ロボット殿堂」入りを果たしている。

全米屈指の医学部を抱えるピッツバーグ大学

 カーネギーメロン大学と隣接するピッツバーグ大学(http://www.pitt.edu/)は、全米屈指の医学部を有している。教育機関の建築で全米一の高さを誇る主校舎「学びの聖堂」は象徴的な建物だ。53年前、ウイルス学者のジョナス・ソーク博士が開発したポリオ(小児麻痺)ワクチンなどの研究で有名で、臓器移植技術では世界一と称されている。

 アレクサンダー・スター准教授は、カーボンナノチューブを利用した医療向けセンサを開発している。呼気中のCOを検知でき、「ぜんそくなど気道炎症疾患を持つ患者の治療に生かしたい」とし、「商品化も間近である」ことを明かす。

 日本の科学技術振興機構(JST)と共同研究も行うキム・ホンクー教授は、2005年に半導体チップのスペクトル分析を行うベンチャー企業のナノラムダを設立。2007年には米国のナノテク・ベンチャー賞に輝いた。同教授は「ナノ領域の物質にはまだ誰も知らない現象が隠れている」と力説するとともに、光学やバイオなどへの応用を目指す考えを示した。また、ピッツバーグ大では、バイオメディカルサイエンスなどの分野でも強みを持つ。

Photo_7 2005年に半導体チップのスペクトル分析を行うベンチャー・ナノラムダを設立したキム・ホンクー教授。

生物医学で強いペンシルベニア大学

 ペンシルベニア大学(http://www.upenn.edu/)は歴史ある名門大学で、全米の大学ランキングでは常に上位をキープする。世界初のビジネススクールで優れたリーダーを多数輩出してきたウォートン・スクールでは、いまも多くの日本人学生が学んでいる。

 生物医学に強い同大は年間350件以上の発明、約100件の技術ライセンスを取得するという。1990年以降でみると、大学発ベンチャーとして約100社を創業し、1,500人もの雇用をフィラデルフィアに創出した。
 同大技術移転センターのルイス・ベネマン元センター長は、「大学と企業の間に橋は架けられる。それも異なる使命や制度上の義務を補完し合い、利益を生み出すことができる」と力説する。

 日本貿易振興機構(JETRO)は、同大を中心とするインキュベーター施設のサイエンスセンターに拠点を設置。日本のベンチャー企業に対し、米国進出に向けた支援を始めた。ただ、2007年にはサイエンスセンターが生んだ米バイオ企業モルフォテックを日本のエーザイが買収するなど、国際競争が激化している。

ビジネスとキャリア構築に最適とされるリーハイ大

 リーハイ大学(http://www3.lehigh.edu/default.asp)を中心とする地域はベンチャー企業が多く立ち並ぶ。米ベンチャー投資の30%以上が集中するという西海岸のシリコンバレーに対し、「リーハイバレー」と呼ばれるゆえんとなっている。
 米Forbes誌は3月、「ビジネス&キャリアを築くために最適な場所」の30位にリーハイバレーを選定した。周辺はかつて地元の鉄鋼会社が本社を置いた城下町だったが、最近では近郊にオリンパスが米国本社を移転するなど再興が進む。

 ペンシルベニア州政府の資金援助で設立され、同大学のキャンパスに構えるベン・フランクリンテクノロジーセンターは、大学で生まれた技術を支援、起業を後押しする役割を担う。ロバート・キースセンター長は「科学と技術でイノベーションを起こし、ペンシルベニア州でぜひ起業を」と呼びかける。

米国流イノベーション創出戦略

 現在、米国の大学が世界トップの座を保つ原動力の1つとなっているのが、中国人やインド人など新興国の勢力である。カーネギーメロン大学工学部長のプラディープ・コースラ教授は「日本人留学生も多いが、いまは中国人、インド人の勢いが素晴らしい」と話す。

 自国の競争社会を勝ち抜いた中国人や、ハイレベルの教育水準にある理工系大学で学んだインドのエンジニアたち。起業精神が旺盛な彼らは、以前は米国で起業したため頭脳流出などと騒がれていたが、新興国の競争力が上がるにつれ、母国に帰り、会社を興す起業モデルが確立しつつある。

 米国流イノベーション創出の戦略は、創造力の源泉となる大学を「世界に開かれた国際大学」へと育て上げたことにある。また、手厚いベンチャーキャピタル制度が新興企業の形成を後押しし、大企業とベンチャー企業の垣根を低くしている。それが多くの留学生や起業家にとって魅力に映るのであり、強い起業熱を維持し続けている理由になっているのであろう。

■インタビュー 青山学院大学 前田昇教授

 青山学院大学 前田昇教授は、米IBM、米Sonyでの勤務経験があるほか、日本のソニー本社では、社内初のベンチャーであるICカード「Felica」の事業化責任者を務めたことで知られる。
 海外を渡り歩いてきた経験から、「日本産業の再興」を後押ししようと学問の世界に飛び込んだ前田教授に、ベンチャー企業を取り巻く日本の課題を聞いた。

――日本でソニーやホンダなどに次ぐ、強いベンチャー企業が生まれないのはなぜでしょうか?
 「大きな問題が2つある。『国際化』の要素と『起業家精神』に欠けていること。研究開発ひとつ取っても、日本はすべて東京の本社が世界の研究拠点をコントロールしている。経営者に目を向ければ、優秀な人は世界のあちこちにいるはずだが、すべて日本人で構成している。
 起業家精神のないサラリーマン経営者はリスクを取ることができず、事業の選択と集中がなかなか進まない」

――では、どこを変えていけばよいでしょうか?
 「世界を舞台にして、最も強いところを生かし、そこに権限を与えればよい。例えば、基礎研究はポーランド、デジタル技術はシリコンバレーという具合に。いろいろな国の人が集まれば、それだけ多様な知恵が生まれる。日本でコントロールしていては本当の世界競争に勝ち残れない。
 その一方で、日産自動車やソニー、日本板硝子などで外国人社長が選ばれるなど、良い流れはできてきたと思う」

――日本の製造業の未来をどのように考えますか?
 「日本のモノづくりが優れている点は、世界中に工場を置き、それをうまくマネジメントしていること。しかしながら、太陽電池に象徴されるように、日本が約40年をかけて研究開発してきた製品が、気が付けば海外のベンチャー企業に先を越されてしまっている。
 国際化をうまく進めることができれば、日本の製造業はもっと良くなるはずと考えている」

(取材・執筆:日刊工業新聞社 科学技術部 藤木 信穂)

韓国、知能型ロボットの普及に本腰。ファンドや品質保証機関など設立へ 「知能型ロボット開発及び普及促進法」要約

 韓国政府は、2月の臨時国会で「知能型ロボット及び普及促進法案」(通称「ロボット特別法案)を通過させた。韓国国内では、同国会での通過は難しいという見方が大勢を占め、また、わが国経済産業省内も同様の見方をしていた。ところが、2月15日には産業資源委員会の全体会議を通過し、法律司法委員会を経て本会議で通過した。法案公布の6カ月後には施行される予定である。

 同法案は、名称の通り、知能型ロボットの開発と普及促進のための基盤づくりと、知能型ロボット産業の持続的発展を目的としている。注目されるのは、第4章の「知能型ロボット投資会社」(通称「ロボットファンド」)設立に関する条文で、海外の知能型ロボット開発企業の経営権参加のための株式投資にも言及している。すでに国内ロボットメーカーの中には、同ファンドの適用に向けた動きを見せているところがあり、わが国のロボット産業にも影響を及ぼしつつある。ここでは、同法案の概要を紹介する。

5年ごとの基本計画の策定を定める

 「知能型ロボット開発および普及促進法」は8章、計49条から構成される。
 各章のタイトルは、「第1章 総則」「第2章 知能型ロボットの開発の基本計画」「第3章 知能型ロボットの普及促進」「第4章 知能型ロボット投資会社」「第5章 ロボットランドの助成」「第6章 韓国ロボット産業振興院」「第7章 補足」「第8章 罰則」である。

 まず第2章では、知能型ロボットの開発および普及に関し、5年ごとの基本計画の策定を規定している。基本計画には、知能型ロボットの開発および普及に関する基本方針、これに関する中期および長期目標、関連する学術振興、基盤施設の構築、ロボット倫理憲章の実行に関する事項などを含むことを定めている

 ロボット倫理憲章とは、韓国産業資源部(日本で言う経済産業省)傘下のロボット産業政策フォーラムが中心に作成したものである。2007年8月にWebサイト上で公表した。人間とロボットとの関係について規定しており、ロボット産業が目指すべき技術と倫理、開発者およびユーザー側の倫理に言及している。

 また第2章では、政府に対し基本計画を推進するための資金確保および行政的な支援として、第4章で言及している投資会社を通じた融資のほか、知能型ロボットの産業統計の作成も規定している。

 さらに、国際機関または海外政府、企業や大学などの国際協力を推進する施策の用意も定めている。具体的には、国際協力のための調査・研究、人材・情報の国際交流、展示会・学術大会の開催、国際標準化活動、国外マーケティングの実施などを求めている。
 国際標準化活動については、すでに国際標準化団体OMG(Object Management Group)にて、産業技術総合研究所のメンバーなどとともに、ローカライゼーション(位置測定)機能の標準化を進めているが、同法案により今後、こうした活動が活発化することが予想される。

品質認証機関の指定および品質認証の実施

 第3章は、知能型ロボットの普及促進を図るうえで必須となる品質認証機関の指定や、品質認証の実施などを定めた条項である。
 指定を受けた認証機関は、認証を受けた知能型ロボットが認証に相応しい品質を有しているかどうかを確認するために、メーカーの工場や事業所への立ち入り調査を実施する権限を持つ。また、いったん認証表示をした知能型ロボットが認証基準を満たさないと判断された場合は、メーカーに対し表示の停止などの措置を命じることができる。これは、偽装や不正な方法による認証や、検査結果が認証基準に該当しないと判断された場合になされる。
 認証機関の指定や取り消し、認証の手続きおよび対象品目、認証申し込み手続きなど必要事項は大統領で定めることになっている。

 第3章では、併せて品質保証事業の実施にも言及している。保険会社や韓国輸出保険公社、資本財共済組合などが携わることができ、品質保証事業者は、品質認証機関に対して認証関連資料の提供を要求することができる。担保範囲や運営など詳細は、これも大統領令で規定することになる。

 さらに、身障者や高齢者、低所得者など社会的弱者が知能型ロボットの恩恵を享受できるための開発や普及促進のための政策の用意、ロボット倫理憲章の制定および広報活動の実施も定めている。

海外企業も視野に入れた知能型ロボット投資会社

 第4章では、知能型ロボット投資会社(通称「ロボットファンド」)および投資危険保証機関の設立に言及している。

 投資会社には、「間接投資資産運用業法」が適用されることを規定しており、投資会社の登録は、監督者である金融監督委員会が産業資源副長官とあらかじめ協議して決定することになっている。
 また、投資対象は知能型ロボット製品および関連部品メーカー、関連する技術開発の普及事業者などとなっており、投資会社の資本金の50%以上を投資することを求めている。具体的には、大統領令で定めた事業のほか、知能型ロボット企業に対する出資・株式・持ち分・受益権・貸し出し債権の取得などに投資を行う。さらに、海外の知能型ロボット企業の経営権参加のための株式および持ち分の投資なども含まれている。

 韓国では、2003年より毎年130億円の以上の予算がロボット関連政策に投入されてきた。しかしながら、関連企業はいずれも赤字となっており、これまでの無謀な投資を疑問視する声が高まっていた。こうした中、1つの方策として支持されつつあるのが海外技術の積極導入による開発の効率化であり、投資会社はその役割を担うべく設立されたのではと考えられている。

 第4章では、ロボットファンドと併せて投資危険保証事業に関する規定も設けている。投資者保護を目的としたもので、投資会社は事業の実施に当たり、投資危険保証機関と決まった損失の補償を約束し、金銭を受け渡す契約を締結することを求めている。

  なお、投資会社に関しては昨年、韓国国内では『120億円規模のものが新設されるのでは』と報道されていたが、最近の報道によると、『投資危険保証事業も含め、既存の保証機関に委託する方法が選択されるだろう』と報じられている。

「ロボット特区」に近いロボットランド助成

 第5章で規定する「ロボットランド」とは、各種知能型ロボットが活用される施設や、その関連施設が設置された地域のことを指すものである。わが国の「ロボット特区」に近い概念と言える。
 市・道知事、産業資源部令が定める公共機関が申請し、産業資源副長官の指定を受けて、ロボットランドを助成することができる。ロボット展示館など大統領令で定める施設を含む助成実行計画を作成し、承認を受けることを求めている。

 また第5章では、ロボットランド助成地域の実効機関、助成実効計画の承認の取り消し、造成や運営費の支援などについて、関連する国内法による承認および認証を受けることも規定している。
 ロボットランドの詳細は、http://www.robotland.or.kr/(ブラウザには「Opera」の使用を推奨)を参照いただきたい。

実務遂行の要となる韓国ロボット産業振興院

 第6章で定める「韓国ロボット産業振興院」とは、知能型ロボット産業振興のための事業を推進し、関連政策の立案を支援する機関である。政策立案に加え、知能型ロボット産業動向調査および出版・広報活動、第2章で言及した知能型ロボット産業の統計作成・実態調査、ロボット倫理憲章の実行および広報活動、市場創出のための試験事業、ロボット関連の国際協力および国外進出支援、知能型ロボット製造に対する支援事業などを手がけることになっており、政府のロボット政策の実務を遂行する。
  韓国ロボット産業振興院の設立については、韓国国内の報道によると、既存のロボット関連支援センターの役割を融合させることで設立される可能性が高いとされている。

 そのほか第6章では、ロボット開発の専門人材の養成機関を担う「知能型ロボット専門員」の指定にも言及している。指定された機関は政府予算の支援が受けられると定めている。

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  本稿では、簡単ではあるが、韓国のロボット特別法案の概要を紹介した。韓国政府の狙いなどはまだ把握できていないが、2003年以降、毎年130億円以上の予算がロボット関連政策に投入されてきた事実などを考慮すると、同法案を通じて、改めてロボット産業を国家戦略に位置づけていることを感じさせられる。

  開発投資に見合う成果が得られていないという現実に対しては、既述の通り、第4章のロボットファンドを通じた海外技術の導入という手段を行使しつつあり、冒頭で紹介した、ある国内ロボットメーカーはそれに乗ったと見ることができる。
   わが国には、ベンチャーキャピタルのようなインフラがないため、今後もそうした動きがあると予想されるが、少なくとも、わが国が単に技術を提供する国にならないよう、少なくとも、ロボットファンドを通じた韓国の戦略には注力した方がよいと思われる。
   本稿では概要のみの紹介にとどまったが、今後も継続して同法案および韓国国内の動向をレポートしていく予定である。