不景気になると『新産業の創造』が叫ばれ、必ずといってよいほど、ロボット産業の育成があげられる。クルマと同様、インテグレートを伴う製品であり、地元のモノづくり企業への経済効果が見込まれること、結果として、地域の雇用創出および地元企業への就業が期待されることがおもな理由で、特に地方行政の主導による取り組みが目立つのは、そのためである。
この場合、ロボットの開発・販売を目指すテクノロジー・ベンチャー、もしくは新規事業立ち上げを狙う中小企業への支援が多いが、支援企業の開発力不足やビジネスモデルの欠如に加え、単にお金をばら巻いているといった行政の問題により、新産業として育成できた例は見られない。それ以前に「新産業=ロボット」という短絡的な発想にも大きな問題があると指摘されることもある・・・。
このような中、大阪・八尾市では、ロボットを象徴的に活用することで、小中学校から工業高校あるいは高専へ、さらには工学系大学、地元企業へとモノづくり人材の流れを形成しつつある。他地域と同様、ロボットを新産業に育成することを最終目標としているにもかかわらず、である。
ここでは、その取り組みの中心を担うマテック八尾「ロボット分科会」の活動と得られた成果を紹介する。そして、ロボットの活用により地元企業への就業につなげる方法を考えてみたい。
ロボット教室に加え、独自のロボコンも開催
ロボット分科会は、経営・技術交流会「マテック八尾」の分科会活動として2004年に6月に設立された。海外とのコスト競争が強いられる中、従来業務の延長となる試作レベルではなく、『八尾をロボット産業の生まれ故郷にする(=ロボット産業の創出)』ことを目標に掲げている。
設立当初は具体的な活動目標がなかったという事情から、また、彼ら自身ロボット開発が未経験であり基礎技術を獲得するという意図から、教育教材ロボットの開発と、それを利用した教育活動から始めた。
2005年春には、「八尾ものづくり理解促進プロジェクト」の一環としてライントレースロボット「マテック君」を開発し、八尾市内の4つの中学校に計300セットを提供した。また、2005年度には「アントレプレナーシップ事業(*1)」(経済産業省)の枠組みにて、2006年度には「ITクラフトマンシッププロジェクト(*2)」の枠組みにて、地元の子供たちを対象にした授業を実施。その後、2007年~08年度は八尾市の事業として「八尾ものづくり体験型ロボット教室」を開催し、継続的な教育活動を展開している。
*1:わが国における将来の新規事業の創造・創出の担い手となる、起業家マインドを持つ若者の育成・輩出を図ることを目的とした事業。2002年度から、関東甲信越を中心とした小中高等学校においてモデル授業を実施し、2004年度からは全国の小中高等学校に展開している。
*2:地域のNPOや大学、企業が持つ技術やノウハウを活用して、小中学生に対してIT教育の機会や環境を提供するプロジェクト。地域ごとに継続的なIT人材の育成が行える環境を整備し、わが国のIT産業を支える人材の創出を目指している。経済産業省により公募がなされている。同省では地元産業界との連携のもと、産業界のニーズに即したキャリア教育を行う「地域自律・民間活用型キャリア教育プロジェクト」を展開しており、その一環として取り組まれている。
2009年は活動を拡大し、2月21日には独自企画となる「八尾ロボットコンテスト(八尾ロボコン)」を開催。参加児童を対象に連動企画として「やおロボット連続教室」(2008年9月以降に5回開催)も実施している。これらには、本家「ロボコン」への出場経験を持つ奈良高専や奈良先端科学技術大学院大学の在校生や卒業生の協力を得ることで、児童から大人まで楽しめるコンテストとして成功を収めた。
さらに、八尾市より「環境ロボット」の開発を受託し、5月には八尾市リサイクルセンターに納品している。アルミ缶とスチール缶、ペットボトルを、左右のハンドで把持することで判別できるうえ、音声認識・合成ソフトを実装しており、子供の質問に答えたり案内をしたりすることもできる。八尾市内の小学生を対象にした、資源ごみの分別や環境問題への学習に役立つロボットとして活躍している。
環境ロボットの開発は、マテック君の開発やロボコンの出場を通じて得た技術力による具現化されたもので、これまでの活動の集大成と言える。ロボット分科会としては、これを機に他地域からもロボット開発を受託し、当初の目標通り、ロボット産業の創出につながることを密かに期待している。
教育と交流を通じて、地元企業の魅力を発信
以上が、過去5年にわたるロボット分科会のおもな活動だが、これらが与えた効果を単純化して説明すると次のようにまとめられる。
まず、一連の教育活動は、地元の小学生から中学生までロボットへの関心、モノづくりへの関心を喚起した。また、八尾ロボコンの開催は彼らに加え、協力した奈良高専や奈良先端大の学生の継続的な参加意欲、地元企業への関心を喚起し、環境ロボットの開発は、特に制御開発に協力した奈良先端大の学生の地元企業への関心をより強くした。つまり、八尾市内の中小企業もロボットという夢のある開発に取り組めることを印象づけた。
そして、これら一連の活動は地元住民を巻き込むことにも成功しており、ロボット分科会を含む地元企業の魅力を伝えたうえ、八尾市民と学生、児童たちとの親密なネットワークの構築につながっている(写真5)。
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ロボット分科会のおもな活動と効果。次世代のモノづくり人材の育成にとどまらず、ロボット分科会を含む地元企業の魅力の発信、関心の喚起につながっている。 |
これらの効果が明瞭に現れているのが、冒頭で紹介したモノづくり人材の流れで、ロボット教室に参加した生徒の中には工業高校への進学を希望する生徒や、ロボコンに参加した奈良高専や奈良先端大の学生の中には、マテック八尾参加企業への就職を希望する学生が現れているという。
以前であれば、「地元の工業高校などに求人票を出しても、学生には相手にすらされなかった。それが、特に何も働きかけていないのに、就職を希望する学生が徐々に増えている」(ロボット分科会の鈴木謙三会長)。中には、「ある著名なロボット開発企業への就職と地元企業への就職を天秤にかける生徒がいたほど」(同)という。
ロボット分科会では、人材育成が活動の正否を左右することを認識しており、継続的なロボット教室の開催に力を入れてきた。これに加え、八尾ロボコンの開催と環境ロボットの開発を手がけたことが地元企業の技術力および魅力の発信につながり、得られた成果と言える。ロボット教室の開催だけでは、ロボットや工学に関心のある児童や学生、その親への訴求効果にとどまり、地元企業への就職希望という成果につながらなかっただろう。
スケールは異なるが、村田製作所は「ムラタセイサク君」および「ムラタセイコちゃん」開発プロジェクトを通じて、人材の流れで類似の効果を得ている。
開発の初期段階から広報部が参画した同プロジェクトは、技術者視点ではなく顧客視点でロボットを利用した企業PR戦略を練り上げ、自社の電子部品の機能価値の発信に加え、所属する開発スタッフの優秀さ、さらには、彼らの思いも伝えることで共感や感動を得ることに成功している。詳細は、同プロジェクトをプロデュースしたロボリューション小西康晴氏のコラム(http://robonable.typepad.jp/column/2008/10/7-9600.html)を参照してほしい。
同プロジェクトは人材確保に大きく寄与しており、以前であれば、同社の人事担当が大学の就職課に出向いて自社技術および製品をPRしても、多くの就職希望者を獲得するには至らなかった。それが今では、ムラタセイサク君とムラタセイコちゃんのPR効果により就職希望者が殺到し、結果として、人事労務にかかる経費の大幅な圧縮にもつながっている。
すでに得た効果をいかに拡張していくか?
上述のロボット分科会に見られる成果はまだ発展途上にある。形成されつつある人材の流れを、小学・中学から工業高校・高専へ、工業高校・高専から工学系の大学へ、そしてマテック八尾をはじめとする地元企業へ、という一貫したものに育て上げるためには、八尾ロボコンの継続的な開催がカギを握るだろう。
指導した地元の小学生からロボット分科会の技術者からなる混成チームが参加する八尾ロボコンは、設計・開発、コンテストへの参加を通じて、ロボットを切り口にモノづくりへの関心を喚起し、かつ地元企業の技術力のPRにつながっている。また、コンテストの開催により八尾市民に対し同様の効果を得るとともに、地域とのネットワークの形成にもつながっているからである。参加あるいは観戦を通じて彼らと活動を共有し、思いを共感するに至るという現象が現れていると言えよう。
また就職は、学生本人の意思だけではなく両親の考えや思いにより大きく左右される。こうした層へのPR効果を期すうえで、八尾ロボコンの開催は必須と言える。加えて、指導した生徒がロボット開発に対し何らかの目標を維持し続けるうえでも、成果発表の場として八尾ロボコンの開催は欠かせないと判断されるからでもある。
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八尾ロボコンの開催のように広く市民を巻き込み、自身の活動に対し共感してもらうことが人材確保につながると思われる。 |
もう1つの取り組みとなったロボット開発については、あくまで技術PRとして臨むのはよいが、その開発を機に次世代ロボット(サービスロボット)産業を育成しようという意気込みで臨むのは危険であり、期待した効果は得られないだろう。
そもそもロボットを次世代産業へと育成するためには開発に加え、ビジネス立案力やプロバイダーやサービス事業者などをつなぎ合わせるコーディネイト力など、多方面にわたる知恵や経験が求められる。また、単に開発・販売するだけにとどまらず、その運用モデルの構築、さらには新たなサービスモデル、生活モデルを提案することも求められる。これらを地域のモノづくり企業のみで実践するのは困難である。
また、開発に参画した企業が自社の持ち出しで開発することになるうえ、継続的な取り組みにしていくのが難しい。実際、環境ロボットの開発では八尾市より300万円が開発費として支給されたが、それにかかった開発費の半分程度を賄うに至っていない。わが国のモノづくり企業は技術力があるうえ熱意を持っているためか、採算度外視で製作するきらいがあり、特にロボット開発ではこうした例に事欠かない。これでは、継続的な取り組みにできない。
ロボット分科会では、全国各地のリサイクルセンターより同様の受注を期待しているが、地元のモノづくり企業を無視して、わざわざ彼らに発注する可能性は非常に低い。マーケットの広がりが期待できないし、やはり継続的な取り組みにはなり得ない。
そして何より、単発にならざるを得ないような、税金を投入したロボット開発が地域経済の活性化に寄与する可能性は低く、広く市民から共感を得る活動になり得ない。
これらを踏まえると、現在の取り組みを、我慢強く継続していくことが、すでに得た限定的な効果をより大きなものに拡大する可能性が高いと思われる。
次世代ロボットを新産業に育成しようとする取り組みが各地であるが、その活動が単発の開発・販売以上の成果を得られるかどうかは不透明である。その取り組みの多くが、地元での雇用創出を最終ターゲットに据えていることを踏まえると、地元企業への人材の流れをつくることが重要であり、ロボット産業の創出という高い壁に挑む必然性はない。であるならば、ロボット分科会で見られるように、ロボットを象徴的に利用することで市民の共感を得て、地元企業に人材が流れる仕掛けを指向する方が得策ではないだろうか。
■関連サイト
新産業の創造に挑む!なにわのロボット商人たち
第20回「次代のモノづくりを担う子供たちを育てるのが僕らの夢!」
~ロボット教室、ロボコン開催を通じてロボットの街を目指す~
鈴木謙三さん(たくみ精密板金製作所)、温川政佳さん(関西クラウン工業社)
http://robonable.typepad.jp/roboist/2009/01/20-d4c0.html
2009.05.12 マテック八尾ロボ分科会、環境ロボット開発、ハンドで資源ごみを判別
http://robonable.typepad.jp/news/2009/05/20090512-39d1.html
2009.02.18 大阪府八尾市の中小企業30社、21日に第1回八尾ロボコン開催
http://robonable.typepad.jp/news/2009/02/20090218-30211-.html
2008.09.22 小中学生向けロボット教室、大阪・八尾市でスタート
http://robonable.typepad.jp/news/2008/09/20080922-666f.html
2008.08.04 来年2月に大阪府八尾市で独自のロボットコンテスト開催
http://robonable.typepad.jp/news/2008/08/20080804-2-edb3.html








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