東京電機大学 工学部 電気電子工学科の植野彰規准教授(http://www.f.dendai.ac.jp/~uenoken/)は、布や衣服を通して心電図や呼吸を非接触で計測できる装置を開発した。電極を皮膚に貼り付ける従来の計測方法(写真左)と異なり、皮膚のへの損傷や着脱の煩雑さなどが解消でき、患者や看護師の負担を軽減することができる(写真右、表)。また、手軽に生体信号を計測することができるため、高齢者の健康状態のモニタリングにも利用することができ、疾病の予防や早期発見に役立てることが期待される。
今回の開発は、新生児集中治療処置室(NICU)内での心電および呼吸の計測において、センサの着脱に起因する医療過誤や、新生児の皮膚障害の軽減を目的としたもの。
計測には「容量性結合」を応用。これは回路内の2点間の静電容量により電圧や電流、電力などが伝達され得る結合状態を指すもので、同装置では「生体」-「布」-「電極」のサンドイッチ構造から生じる静電容量により、生体内部の電流変化を寝具に貼り付けた布製電極側に伝達。この微弱な電気信号を検出することにより、市販の肌着を介して、乳児の心電図および呼吸性変動の計測を可能にした。生後 17日~187日の乳児を対象に実験では、安静状態であれば、ほぼ100%の確率で両方の信号を検出できたという。
病院内の成人用ベッドに組み込めば、センサ類を身体に装着せずに夜間の心停止や呼吸停止を検出するモニターに応用することができる。また、中高年の一般家庭用ベッド(布団)や車のシートに付加すれば、就寝時や運転時の長期データをもとに、心疾患のスクリーニングや治療(投薬)効果の確認や健康管理などに役立てることもできる。さらに、衣服に組み込めばウエアラブル心電(または心拍)センサへの展開も見込まれる。
研究では、心電図以外にも筋電図を計測できることを確認しており、リハビリテーションや福祉分野への応用も期待できるという。
今後は、新生児の体動に対する耐性を向上させるとともに、心電図の低周波成分も検出できるよう装置を改良する。また、ホームヘルスケア分野での実用化に向け、就寝時計測データをもとにスクリーニングする疾病を検討し、解析を進めるという。
なお、本研究は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「産業技術研究助成事業 若手研究グラント」(予算規模:約50億円)の一環として取り組まれた。
■関連情報
http://www.nedo.go.jp/informations/press/201113_1/seika.pdf