KDDI研究所(http://www.kddilabs.jp/)特別研究プロジェクトの小林亜令特別研究員は、7月22日~24日開催の「ワイヤレスジャパン2009」で講演し、携帯電話に搭載した各種センサ情報を複合的に利用することで、現在のユーザーの状態を把握する自動推定技術を研究していることを明らかにした。走行や歩行、自動車やバスへの乗車など計7種類の移動状態を80%以上の精度で推定することができる。これをもとに、すでに発表している「実空間透視ケータイ」のほか、安心・安全や健康管理といった各種サービスを開発する。さらには、複数ユーザーの状態情報を組み合わせることで、場の状況や社会の状態の把握にもつなげる。
発表したのは、携帯電話に搭載した各種センサ情報を複合的に利用することでユーザーの移動状態を推定する技術。「走行」「歩行」「自転車」「停止」「電動車」による移動と、「自動車」「バス」「電車」といった移動手段を推定することができる。2種類の方式を採用しており、まず加速度センサと歩数計、基地局の情報をもとに前者による移動を推定。「電動車」による移動を推定したときは、マイクとGPSの情報により後者の移動手段を判別する(図)。マイクで電動車特有の音や振動を、GPSの情報から加速度をそれぞれ求めることで移動手段の推定を行う。計7種類の移動状態を推定することができる。
200名程度のモニターを対象にした実験では、すべての状態で80%以上の推定精度が確認された。前者の「走行」「歩行」「自転車」「停止」はいずれも95%以上の高い推定精度を達成したという。
次のステップとして、これら各種センサで得た情報を加工やマッチングなどにより有用な情報に変換することを検討している。同社では「センサーデータマイニング」と表現している。ユーザーの現在の状態(ユーザープレゼンス情報)に加え、嗜好や行動パターンなどプロファイル情報の獲得につながるとし、例えば、子供がスクールバスに乗車したら母親に通知するといった安心・安全や、運動のサポートなど健康管理に寄与するサービス提供が見込まれる。そのほか、電車に乗ったら自動的にマナーモードに切り替えたり、自動車に乗車したら助手席ナビを自動的に軌道したりするといった利便性の提供もできる。
コマツの「KOMTRAX」をはじめBotBを対象にした顧客状況を把握するシステムはすでに存在するが、個人を対象にしたシステムの実現が見込まれ、リアルタイムでの顧客価値の共創の実現が期待される。
さらには、複数ユーザーのプレゼンス情報を組み合わせることにより場の状況(空間プレゼンス)の把握も可能になることも見込まれる。
小林特別研究員は、携帯電話のようなものでユーザープレゼンスを把握できるような段階を「パーソナルエージェント」、空間プレゼンスを把握できる段階を「フィールドエージェント」、そして、社会の状態を把握できる段階を「ソーシャルエージェント」とそれぞれ表現し、「いずれ(携帯電話は)環境やエネルギー問題の解決に寄与するようなソーシャルエージェントへと進化を果たす可能性がある」としている。
なお、すでに発表している「実空間透視ケータイ」は自動推定技術の応用例の1つで、6軸センサ(3軸加速度センサと地磁気センサを組み合わせたもの)で携帯電話の姿勢情報を、GPSから位置情報を測定し、取得したユーザーと対象物との位置関係をもとに、携帯電話の向こう側の情報をクリッピングする。アプリケーション例として、撮影した写真を実空間上に仮想的に保存できる「地球アルバム」と、実空間上に展開された口コミ写真や情報を閲覧できる「トラベルビューア」(4Travel社と連携)、飲食店やコンビニなどランドマークの表示および簡易ナビーションを行う「MAWARIPO(マワリポ)」(博報堂と連携、写真)のβ版を公開(http://kazasu.mobi/)している。
8月にトラベルビューアのβ版を、9月にはMAWARIPOのβ版のリリースを予定。また、8月中にAPIを公開し、ユーザーおよび開発者それぞれのニーズを調査する。現在、これらのアプリケーションはアプリケーション層で独立して動いているが、共通エンジン上で動作するように変更する。
■関連サイト
ロボナブル2008年9・10月特集
顧客行動の“見える化”にRT(Robot Technology)の役割を埋め込め!
PART1 顧客行動を捉えるところにこそRTの重要な用途がある
http://www.robonable.jp/monthly/2008_09_10/p1.html
コマツ「KOMTRAX」http://www.robonable.jp/monthly/2008_09_10/p1.html#p001-01
森精機製作所「MORI-NET Global Edition」http://www.robonable.jp/monthly/2008_09_10/p1.html#p001-02
ロボナブル2008年4月特集
「失敗するロボットビジネス 成功するロボットビジネス」
Part3 顧客価値の共創にこそロボットやRTの役割がある -私が考えるロボットビジネスの本命-
http://www.robonable.jp/monthly/2008_04/p3.html
2009.06.12 コマツ、KOMTRAXを産機事業に応用展開、今秋にも納入産機を遠隔管理
http://robonable.typepad.jp/news/2009/06/20090612-komtra.html