産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門 ユビキタスインタラクション研究グループは、3次元の立体映像の感触を確認しながら形状デザインが行えるシステム「i3Space(アイ・キューブ・スペース)」を開発した。人の錯覚を利用して触覚と力覚(触力覚)を提示するインターフェースと立体テレビを組み合わせたシステムで、立体映像に感触(触覚)や手応え(力覚)を付加することができる。ゲーム用のインターフェースに加え、手術シミュレータや3次元CADによるデザインなどへの応用が期待される。今後、小型・高機能化に取り組むことでスマートフォンへの対応も図る。また、産総研単独での成果であることから、開発したシステムをもとにベンチャー創業も目指す。
触覚や力覚に関する錯覚を利用することで触覚や手応えを提示する技術を応用した。この技術を実装した「錯触力覚インターフェース」(写真左)に位置検出マーカ(写真右)を装着してユーザーの動作を認識し、それに合わせて触力覚の提示をリアルタイムに制御することで、立体映像にこれらの感覚を付加する。
システムは、立体映像の触力覚シミュレーションを行う「リアルタイムVR空間生成システム」、錯触力覚インターフェース、指の動きを測定する「マルチ・ポジション・トラッカーシステム」から構成。
まず、マルチ・ポジション・トラッカーシステムで、6方向からカメラによりユーザーが指先に装着したマーカの位置を測定。次に、リアルタイムVR空間生成システムで計測したマーカの位置から物理モデルに働く力を計算し、この力による物理モデルの変形・動作をシミュレーションしてユーザーに働く力や立体映像を生成。そして、立体テレビに映し出すとともに、錯触力覚インターフェースを動作することでユーザーに感触や手応えを提示する。6方向から指先の位置を計測するため、立体映像の移動や変形、回転操作も行える。
錯触力覚デバイスには、2005年に産総研が開発した「GyroCubeSensuous」を利用。振動に対する人の錯覚を利用したデバイスで、内蔵した2つの偏心回転子の回転方向および位相を制御することにより任意の方向・強度・周波数の振動・回転力・力感覚を示すことができる。昨年の「産業バーチャルリアリティ展」では、体感型釣りゲームとして、魚がかかった感じのほか、押す・引く・浮き上がるといった感覚が提示できることを示していた。。
応用の1つとして、3次元CADによるデザインがあげられ、立体映像の変形による反力を力覚で確認しながらの調整やデザインが行える。また、ろくろを用いた陶芸のように、立体映像を回転させ感触で確認しながら立体造形ができ、感性を刺激しながらの創作活動の支援も期待される。
なお、開発したシステムは、8月31日~9月2日に開催される、ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2010」で発表・展示する。
■関連サイト
2010.05.18 NHK、仮想物体の触感を伝える装置試作、力覚提示装置を統合制御、テレビに応用へ
http://robonable.typepad.jp/news/2010/05/18nhk.html#tp
2009.10.02 慶大、人の動作を保存・再現するシステム開発、遠隔医療や技能伝承などに応用
http://robonable.typepad.jp/news/2009/10/20091002-229e.html
2009.07.30 NiCT、3D立体映像と接触音とともに物体の感触を提示するシステム公開
http://robonable.typepad.jp/news/2009/07/20090730-nict3d.html#tp
2009.07.24 NTTドコモ、音や映像に続く対話としてマスター・スレーブ方式の遠隔操作を公開
http://robonable.typepad.jp/news/2009/07/20090724-ntt-99.html
2009.06.25 産総研、押す・引く・浮き上がるなどの感覚を提示する体感型釣りゲーム出展
http://robonable.typepad.jp/news/2009/06/20090625-6756.html#tp
トレンドウォッチ
触覚インターフェースは技能伝承に使えるのか?-名工大、触覚技術のメカニズム解明へ-
http://robonable.typepad.jp/trendwatch/2008/05/post-a79c.html