トヨタ自動車 パートナーロボット部の村山英之氏は、9月22~24日開催の「第28回 日本ロボット学会学術講演会」で、作業者との共存環境下で運用可能な「スペアタイヤ自働搭載ロボット」(同社では「自動化」ではなく「自働化」と表現、文末の動画参照)の概要を初めて紹介した。独自の自重補償機構の搭載により80Wの低出力モータながら重量物の搬送を可能にしたうえ、アームにかかる外力を推定する制御技術により作業者に衝突したり作業者を挟み込んだりしても、アームを押しのけて逃げることができる。2010年1月より同社高岡工場(愛知県豊田市)の第1組立ラインで運用を開始しており、45秒程度のラインタクトに対応できているという。今後、これらの技術を応用してバッテリーやエンジンの自動での搭載を目指す。
バネなどの張力によりアームの自重をゼロにする自重補償機構と、力センサレスでアームにかかる外力を推定する「力センサレス柔軟制御」の開発により実現した。
労働安全衛生規則 第36条 第31号の労働大臣が定める機械を定める告示では、すべての原動機出力が80W以下であれば産業用ロボットの適用除外となる(*)。自重補償機構により各軸に定格出力80Wのモータの利用を可能にし、作業者との共存環境下での運用およびスペアタイヤの搬送を実現した。
また、力センサレス柔軟制御は残留リスク対策として実装したもので、作業者や障害物に衝突した際のアームの抵抗力を抑制することができる。これらの接近を検知するレーザレンジセンサを2台搭載しているが、レーザの死角に入り込むことで万一、これらに衝突したり挟み込んだりしても作業者はアームを押しのけて逃げることができる。
それぞれの詳細を紹介すると、アームは昇降軸以外の3軸はすべて水平回転で構成し、スペアタイヤを保持する手先を支える昇降軸には、手先の位置が変わらない平行リンク機構を採用。昇降駆動と水平駆動を完全に分離することで昇降軸のみに自重補償機構を組み込めばよいようにした(写真、村山氏提供)。
自重補償機構は2本のバネとチェーンから構成され、バネに結合したチェーンを平行リンクの回転中心から少し上の位置でスプロケットで巻き付け、さらに、平行リンクの回転中心からアームの手先寄りの位置に結合させている(動画)。平行リンクが鉛直方向に向いた姿勢でバネの伸びがゼロになるようバネのたわみを調整することで、アームの自重をゼロにしている。万一、片方のバネが破損しても、もう片方のバネの張力によりアームが急に下がる危険がないという。
力センサレス柔軟制御は、駆動軸のモータ負荷電流からトルクと各軸の角速度、角加速度を推定し、これらをもとにアームの動力学モデルを解いてアームにかかる外力を推定する。駆動軸のトルクを用いているため、アームのどの部分が作業者や障害物に衝突しても外力を推定することができる。
また、アームの手先があたかも一定速度で動作するよう機械的なインピーダンス(慣性や減衰係数、剛性など)を力制御(いわゆる「インピーダンス制御」)することにより、アームの抵抗力を抑えつつ一定にしている。衝突時のアームの抵抗力を任意に設定することができ、作業者がアームを押しのけて逃げられる値にすることができる。加えて、従来のインピーダンス制御と異なり、アームを押しのけたとたんにアームが急加速することもない。
今後は、スペアタイヤより重量が大きいハイブリッド車のバッテリーやエンジンなどの搭載作業への適用を目指す。また、介護福祉分野のロボットにも展開する。なお自重補償機構は、慶應義塾大学の森田寿郎専任講師の研究成果を応用した。力センサレス制御の開発は、ウインドウ搭載アシストシステムの開発に参加した首都大学東京の武居直行准教授らが協力した。
■注釈
*:産業用ロボットの安全規格ISO 10218ではツールセンターポイントの最大動力は80W以下、最大力は150Nという制御下で人との協調運転を許容している。
■関連サイト
2008.09.16 【RSJ学術講演会】トヨタ、ウインドウ搭載アシストシステムを初公開
http://robonable.typepad.jp/news/2008/09/20080916-rsj-98.html#tp
コラム「先川原室長のロボヤマ話」
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産業界で望まれるロボット技術
http://robonable.typepad.jp/column/2009/11/06furo.html